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第8話

ガイ少将の意識は、三日もすると大分戻っていた。 しかしまだ半覚醒状態で、自分が置かれた状況をどこまで理解しているのかは不明。 「んー、ん」 偉そうに顎をしゃくって水分を要求したりする。 カップにストローを挿して渡せさないと水ですら飲まないけどな。 暇そうにする様子も、ベランダに出たがる様子も伺える。 しかし離れると相変わらずカクンと逝ってしまう。 そうなると側にぴったりと張り付いて不都合が無いように献身的な介助をする事になるのだが……。 「寒い」 「熱い」 「眠い」 要求は止まない。 「食事」 「あーはいはい、ちょっと待ってて下さいねぇ」 俺はガイ少将を連れて部屋に届けられた食事のトレイを待ちに立った。 どこに行くにも自分よりも大きな男がカルガモの親子のようについて来るのは、離れられないのだから仕方ない。 それより困ったのは、食事をさせるのが一苦労な事だった。 食欲が無いのか、それともやって貰う事が当たり前なのか、少将は目の前に食事を並べても決して自分で食べない。スプーンで口元に運ばれるまで待っているのだ。 「自分で食べられるでしょ、食べて下さい」 途端にムッとした表情になる。 「手を繋いでますから」 ふんっとそっぽを向かれた。 とことん依存。酷い依存。 依存体質の患者は多い。何でもやって貰って当然と自分で動く事をしない人で、本当に手がかかってデカイ分子供より始末に悪い。 が、自分でやろうという意思が芽生えて来ないのだから仕方ない。 「少しは動かないと筋肉が落ちますよ」 少将はふんっと顔を背けた。 仕方なく俺がスプーンを持つと、機嫌良くあーんと口を開けて待っている。 しかし本当に意思が芽生えて来ないだけなのだろうか。少将を見ていると甘ったれてるだけのような気がしないでも無い……。 「もう数日で死ぬほど後悔する事になりますよ」 意識が完全に戻らないので警戒心が薄いせいなのかも知れないけど、はっきりするに従って将校は元の少将になるだろう。そうなった時に死ぬほど恥ずかしい思いをするのは本人なのにね。 その時ドアがコンコンとノックされて開かれたドアからクライル大佐が入って来た。 来て貰ったには理由があって、魔力を少量ずつずっと少将に与え続けるのは俺が魔力切れを起こす。 なので誰かに補充して貰いたいと上に連絡したら、クライル大佐に白羽の矢が立ったのだ。 大佐は食事中の俺たちを何をやってんだという目で見てから、少将に向けて敬礼をした。 「お疲れ様です」 俺はさりげなく少将の肩に大判のバスタオルをかけておっぱいがある上半身を隠してから、大佐に挨拶をした。 もちろんあーんしながら。 呆れ顔の大佐はうんざりとため息を吐いた。 「鬼のガイ少将がお前にこれをさせるのがすげーな」 「この人いま、半覚醒なんで。ガイちゃん、あーん」 「あーん」 スプーンで救ったスープを口に入れてやって大佐を見る。 「ね。可愛い」 少将の頭に顎を乗せてトーテムポールのようだ。 「早く切り上げて現場復帰しろよ。こんなんで呼ばれちゃ敵わない、現場は忙しいんだよ」 言うが早いか大佐にガッと頭を掴まれて上を向かされ、あっと思った時には唇を塞がれた。 「むぅっ!」 そのままぬるりと舌が口に入り込んで来て、同時にふわりと魔力が注ぎ込まれて来る。 魔力の引き渡しには体液が一番効率がいい。 とは知っているけど、まさか大佐がこれをやるとは。 無精髭の男とキス。 人使いの荒いくたびれた白衣のおっさんとキス。 叩き上げの大佐の仕事ぶりは、効率が良くて正確で、何でも早い。これも仕事の一つと考えて効率のいい方法を取ったのだろうけど。 突き放したいのを必死で堪えてゲロ吐きそう。 クチャリと濡れた音が口から立って、肉厚な舌に口の中を蹂躙される。 「……最悪」 キスの合間に呟けば、男のくせにキスくらいでガタガタ言うなと返された。 「男のくせにキスくらいでガタガタ言うな」 それを、こちらを振り仰いで見ている少将が復唱なんかするから、しっかり見られている。 見てる。 大きな緑の瞳が、じーっと見ている。 まるでしゅーんと音がするような勢いで粘膜吸収された魔力が満ちてきて、確かに早くて効率がいい……。 「終わり」 言葉と同時に頭を後ろに押しやられて首が痛かった。 唇の片方だけ引き上げてニヤリと笑った大佐は、親指で濡れた唇を拭った。その挑発的な視線の流し方に、俺はくそっと思いながらも補給させて貰った礼を言うしか無い訳で。 「お忙しい所、お手数をおかけしました」 「どーいたしまして」 くそぅ……。 俺の唇。

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