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第11話
午後からは対魔団の訓練場に連れて行かれた。
青空の下、訓練に励んでいた団員達はガイ少将の姿を見るなり駆け寄って来た。
中には泣き出した者も居て、全員が少将の無事を喜んでいる。
鬼の少将なんて言われているから怖がられているのかと思えば、ずいぶんと好かれているようで。
ガイ少将は噂と違う。
「すみませんでした、俺達が……俺達のせいで」
確か、隊を庇ってドラゴンの爪に一刀両断されたんだっけか。
みんなに囲まれて静かに微笑んでいる姿からはとても想像できないけれど、エリアAに転移して来た時の少将は、本当に胴体が二分されていたのだ。
「誰のせいでも無いし、言うなら自分のせいだ。私はまだまだ未熟だった。心配をかけてすまない」
「そんな、少将が未熟なんて……少将、の手を繋いでるコイツは誰なんですか」
涙ながらに無事を喜ぶ団員の目が少将と手を繋ぐ俺に移って、頭のてっぺんから爪先までジロジロ眺められる。
少将がみんなに俺を紹介してくれて、四六時中くっ付いて無いとならない理由も話してくれた。
「なるほど。でも俺達の魔力じゃダメなんですか?そんな信用出来ない奴とずっと一緒なのは危険です、俺らが魔力を分けられたら」
「彼は誰よりも信用に値する。一つ間違えば禁忌の使い手として自分が罰せられる再生術を咄嗟の判断で行い、自分の魔力が枯渇しても仲間の魔力を借りてまで私を救ってくれた」
何、このベタ褒め。
嬉しい。照れる。
「しかし、四六時中別の団の者と一緒というのも……」
胡散臭そうな視線に対魔団の結束力を見て、なるほどなと思った。この団はガイ少将を中心にとても良くまとまっている。
「要は魔力補充だから他の者でも可能だと思うが、セレスの魔力とは相性がいいらしく、私が気に入っている」
しかしそれよりも、晒しをキツく巻いて潰しているけれど脱いだらメロンおっぱいがある事がこの団員達にバレたらどうなるだろう。
威厳を失ってしまう。
いや、おっぱいの有る無しで損なわれる信頼関係じゃ無いけど、バレないに越した事は無い。
バレたら……。
ガイ少将が筋肉隆々の部下達に裸でおっぱいを揉まれている絵面を想像して、俺は即座に頭を横に振ってそれを払い去る。
そんな下剋上はあってはならない。俺は少将を守らなきゃ。
「少将、失礼ですが胸がお辛いのでは無いですか?」
ギクッとした。
目敏い奴がいるもんだ。
長い金髪を後ろで一つに束ねた、スラリと背が高くて雰囲気のある綺麗な男だった。一見女性かと思う華奢な身体付きは、こんなのが対魔で大丈夫かと心配になるほど細い。
しかし魔物討伐は腕力よりも魔力が物を言うので、対魔騎士が似合いと言えば似合いの美しい人。
彼はきっと騎士だろう。
騎士と兵士の違いは入隊する代わりに国から領土を与えられたのが騎士で、例えば公爵家の少将は騎士になる。一般からの志願で、領土では無くて給料払いが兵士、つまり俺。
「いえ、少し猫背になっているので胸を庇われているのかと思いまして。治癒隊の者が付き添っておられるのに、差し出がましいとは思いましたが」
本当にな。
そんな事を言ったらみんなの目が少将の潰したメロンおっぱいに集中して気付かれるじゃないか。
「少将はまだ完全回復では無いので」
「でしたらお手を繋いでいるだけでは無く、ちゃんと支えて差し上げて欲しいですね」
何をやってんだお前は的な視線を向けられて、もしかしなくても喧嘩を売られてる気がする。
「それに失礼ですが少将をお守り出来るようには……」
チビと言いたいのだろうか。
チビで華奢で頼り無いと言いたいのだろうか。
スッと下がった俺のテンションを察したのか、隣で少将が大丈夫だと薄く微笑んだ。
「さぁ、みんな訓練に戻れ。私はまだ挨拶に行かなければならない所があるので失礼する」
早々に訓練場を後にしながら、さっきの金髪は男爵家の次男だと教えて貰った。
「有能な奴だから仲良くやってくれ」
あっちにそのつもりが無さそうだけどね。
しかしミシェールねぇ……。
最初から喧嘩を売られる意味が分からない。
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