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第17話
そうっと会議室のドアを開けると、中は厳つい爺さん連中が机をコの字に向かい合わせて会議中だった。出来るだけ静かに静かに、気配を殺して一番端の席に居るガイ少将に近付く俺に、少将は隣の椅子を示す。
座って手を握って魔力を流せば、間に合って良かった。
「遅かったな」
少将が小声で言ってくる。
「すみません」
「それに凄い荷物だ」
紙袋に四っつ。クライル大佐が振った仕事が荷物のほとんどを締めている。
ちらっと聞いた会議の内容は全然意味が分からない。
俺には関係ないので、この隙に待たされた仕事を片付けようとファイルを広げる。
えーと、カルテを読んでサマリーを読んで……。
「忙しそうだな」
「少将ほどじゃありませんよ」
何しろこの人は覚醒した当日に挨拶回りをして、翌日にはこれだ。病欠って魔法の休暇はどこへ行ったの?
「面白そうだな」
「どこ見て言ってんですか」
でもまぁ、上司に当てにされるのは悪くない。俺の居場所は治癒隊にあるんだと自信が付く。
そう考えるとクライル大佐は人を使うのが上手くて、大事にしてもらえてる。本当は一人外れたくらいで回らない職場の方が困るので、居なくても大丈夫になってるのに。
「あの人はよっぽどセレスを手放したく無いんだな」
「何がです?」
「上手い方法を使うなと思って」
それは俺が単純だって事だろうか。
まぁ、そうだけど。
その後もう一つ別の会議に出て寄宿舎に引き上げる事になった。
少将の部屋はもちろん士官以下が使う建物とは別の建物になるのだけど、この階級になると既婚者ばかりなので自宅から通勤している人がほとんどで、寄宿舎の利用その物が少ない。
「他の将官に会う事は少ないだろう」
エレベーターでニ階のボタンを押して、ドアが開いたらどこのホテルかと思う煌びやかさだった。
「この階に入ってるのは私の部屋と、あと一人の部屋だけだ」
廊下の絨毯は深い茶色で、織り方で模様を描き出している。正面の壁には大きな花瓶と生花。シャボン玉のようなシャンデリア、壁にかけられた絵画。
「クライル大佐もこの建物だ」
「えっ」
大佐にも帰る部屋があった事の方が驚きだ。いっそ病院に住んでると言われた方がしっくり来る。
でも独身将官なのだからこの建物になる。
待てよ。そうなるとミシェール中尉も同じ屋根の下だ。
「大佐は何階なんですか?」
その質問にガイ少将は視線の動きだけでゆっくりと俺を見る。
そうして、さぁ?と首を傾げた。
「知らないな」
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