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第19話
という事でやって来たのは都の中央にある電波塔の最上階スカイレストラン。
今話題の観光スポットで、入り口で覗くと店内は若い世代の客でほぼ満席になっている。
それよりも……見えたその内装に俺は固まった。
壁が全てガラス張りで、まるで空に浮かんでいるみたいな開放感が凄い。
「怖いくらいですね」
目を見張っているとウェイターがガイ少将の軍服の校章を見て角のボックス席に案内してくれたのだけど、見るからに特別席ですとスペースを広く取って隔離してあるその席は、背中の壁もガラス、横の壁もガラス、床もガラスのゾッとするほど宙に浮いてる気がする。
下を見たら地上の景色が遥か下にあってミニチュアみたい。大きな木を真上から見る構図に目眩がした。
ゆっくりしたいと選んだ店がここ。
わざわざここ。
巷で噂の絶叫スポットじゃないか。
「す、素敵な店ですね」
少将の感覚、変。
「面白いな。セレス、奥へ」
「いや、いいですよ。少将が角にどうぞ」
断ったのに一番角に押しやられて、ソファーに座れば後ろも横もガラスで、まるで断崖絶壁に押しやられた気分だ。隣に腰を下ろしたガイ少将は爽快だなと笑ってる。
ここは爽快な気分を味わう席では無くて、店内一のスリルを味わう席じゃないのかな。他の席の客が羨ましそうに見てるけど、アイツらもみんなバカなんじゃないのかな。
少将がコース料理を頼んでくれて、料理を待つ間に夜は夜景が美しいだろうなんて言ってる。
「そ、そそうですね。きっとそうですね」
そんな事はもはやどうでもいい。
俺は怖い。
やがて運ばれて来た前菜は、クラッカーにマリネやチーズが乗った一口サイズの物だった。それを少将は自分で摘んで食べてくれたから、観光客の前で食べさせるという芸はしなくて済んで良かった。
「味はそこそこだな、塩の味がイマイチだ」
知らんそんな物。恐怖で味なん分かりゃしねぇーよ。
俺は大急ぎでクラッカーをバキバキ噛み砕く。
「お、美味しいです」
次はコンソメスープと胡桃パンが出て来た。手間をかけずに一気に持って来いと言いたい。
望まれる前にスプーンにすくったスープを少将の口にどんどん持って行き、人前で食べされるのがどうとか、どうでもいい。一刻も早くこの店を出たい。
「物怖じしないセレスと一緒だと、色々と面白いなと思うよ」
「え?」
「団員がこの店の事を話しているのを聞いて、興味があったんだ。誰かを誘おうにも友達がいない。王太子はさすがに誘えないだろ」
「対魔の人と一緒に来れば良かったんじゃ?」
「プライベートまで上官と一緒じゃ気の毒だ」
気遣いの人だなぁ。
対魔団を見る限り、みんなガイ少将大好きで一緒に出掛けるのも喜ぶと思うけど。
「嫌じゃ無かったら、また今度一緒に行って欲しい。私は世間知らずだから色々な事を教えてくれないか」
なんて言うか、擦れて無いと言うか、素直と言うか。
鬼の少将なんて誰が言い出したのだろう、本当に噂と全然違う。
そう考えたら、突然のこの食事は俺の気晴らしを考えてくれたのかも知れない。
「もちろんです」
そう言うと、少将はほっと息を吐いた。
「一つ、聞いておきたいんだが」
「なんですか?」
「セレスは、恋人はいるのか?いや、私に付きっきりになってしまうから、もし居たら申し訳無い」
それは少将の方も同じなのだから、こっちが聞きたい。
少将に居ないわけ無いと思うんだけど、会えない事に不満は無いのだろうか。
俺なんか掃いて捨てる程どこにでも居る一般人だけど、少将は家柄と実力と容姿の三拍子に加えて人間性までいい完璧人間だ。誰もが憧れと尊敬の眼差しを向ける非の打ち所がない人。こんな人に恋人の五人や十人いないはずが無い。
「そういう人は居ないんで、次は俺が少将が楽しめそうな所を考えますね。俺にも誘わせてください」
だけど聞くわけにも行かなくて取り敢えずの社交辞令を言うと、少将はふっと笑ってくれた。
「楽しみだ」
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