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第22話
「そんなっ!だって少将は生きてるのにっ!」
思わず叫んだけれど、もしかしたら死んでいたかも知れないと一番不安に思っていたのは、俺じゃ無いのか。
自分が禁忌の魔術を使ってしまったのかどうか、少将の意識が戻るまで気になって仕方無かった。だけど意識が戻ってみるみる回復して、生きているから大丈夫と……。
少将は一言も喋らない。
黙ったままずっと症例を読んで、一つ読み終えたらページをめくってその次、読み終えたらその次と、白い紙の上に否を唱えられるだけの物を探している。
「セレスはお咎め無しだよ。ガイ少将は公爵の三男だ、上が生きていたと言い張る。だから禁忌の魔術は行われていない事になる。あの時俺はお前にそう言ったよな」
そう言われて思い出した。魔力切れで寝込んでいた俺は、目覚めてすぐに少将の容態が気になって……その時に大佐から言われた。
「残念だけど、何を探しても禁忌魔術で生き返った人間の症例は出て来ない。この世に答えは存在しない、何故なら少将はすでにこの世の理から外れた……失礼。とにかくセレスからの魔力供給をやめれば、これは仮説ですが少将の身体は徐々に崩れて行くでしょう。ガイ少将が存在し続けるにはセレスが必要で、別の人の魔力が代わりになるかどうかは試してみないと分からない。そして少将自身の魔力の復活は無い。これが俺の考えです」
何を言えばいいだろう。
漁っても答えの無い資料を読む事をやめて頭を抱えた少将に。
テーブルの上に散った白い紙の束と、静寂の落ちた部屋。
俺は何て事をしたんだろう。
俺は、俺は……。
死んだ人間の甦り魔法は禁忌だ。その理由はその本人の気持ちを考えれば分かる。少将を今支配しているのは絶望なんて言葉じゃ表せない程の闇。
「例えば国王を甦らせたら、その術者に国王は支配されるでしょう。術者からの魔力供給が失われたら死ぬのだから、国を乗っ取るのは簡単だ。しかしそれだけの事を出来る術者は稀だとも思います。セレスは他者からの魔力供給を残さず発動出来るという特殊能力があった。それはそんな場面にならないと分からない事だから本人ですら知らな事だったでしょうけれど、この巡り合わせをガイ少将が幸せと取るか不幸と取るかは少将次第だと思います」
淡々と告げる大佐に、ガイ少将は初めて視線を向ける。
「君はどう思う?」
「俺は……俺なら、不幸だと思いますね。失った命に縋る程後悔のある生き方をしていません」
大佐の言葉を最後に、部屋には静寂が満ちた。
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