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第25話

こぼれるように揺れ落ちたのは白くて大きな乳房。 小さくて薄い色の乳輪と、同じように小さい乳首に視線が釘刺しになる。 ドクンドクン鼓動が激しくなって、吐きそう。 思い通りにならない残酷な衝動が、大事な人の命よりも高いプライドを踏み躙ろうとする。 そんな事をしたら領地に帰っても俺はずっと嫌われ続けて、許される事など一生無いのは分かってる。 分かってるんだ。 手を伸ばして乳房に触れると、やわらかな胸に指が沈んでクラクラした。 温かい。 掌に伝わる重さと体温と、胸の有る紛い物の身体でもガイ少将はちゃんと生きてる。 温かくて溶けそうな程に優しくて。 出来るわけない……。 前線に立てないから後方支援の治癒に居る意気地無しの俺には、非情になる勇気すら無いんだ。 その時、玄関でカタンと物音がして、クライル大佐に頼み事をしていた事を思い出した。 ……助かった。 俺はほっと、少将から視線を引き剥がす。 きっと大佐が来てくれたのだろう、本気で助かった。 このままずっとガイ少将と二人きりで居たら、おかしくなる。 「はい」 死にたくなる気分でドアを開けると、ドアの向こうに居た大佐と目が合った瞬間に、酷い顔してるなぁと皮肉に笑われた。 「邪魔してやろうと思って速攻で用事を片付けて来たのに」 その顔じゃ下手したんだろうと笑われて、この人はどこまでお見通しなんだろうと呆れた。 「少将は?」 「魔力切れでダウンしてます。どうぞ」 ガイ少将が寝てるとなると、クライル大佐は礼儀正しかったさっきとは大違いの不座法でずかずかとリビングに入って、さっきと同じソファーに座った。 「で、あの日退魔の後方支援に出た少佐だけど」 「はい」 「仕事はしっかりこなしたらしい。ドラゴンの爪に切られた時にすかさず保護魔法をかけてる。血飛沫が飛ぶよりも早く傷口をぴったりと覆って生体保護をした、と本人は言っていた」 「じゃあ」 「ただその後が悪い。隊の全員が避難して重傷者からこっちに転移、この間おおよそ二十分。少将が一番最後だったのは本人の指示だ」 と言う事はその二十分間、少将の意識はあったという事でいいのだろうか。 「いや、途中から意識消失。言い残した指示に従ったらしい。いくら保護しても二十分は無理だろう」 「死亡では無く消失ですか?」 確認のために尋ねたら、そうだなとクライル大佐は頷いた。 「しかしどう思う?普通なら助からないのはもちろんだけど、保護魔法をかけても二十分は、な。現場は大混乱でいつ意識が無くなったのか、いつ心臓が止まったのかなんて誰にも分からない」 「いえ、確認するでしょうね」 そんな状況で大荷物を抱えていたら自分が助からない。生きていたから助けるために抱えて逃げたのだ。 そう言うと、クライル大佐は大きな息を吐いた。 「そう思うよ」 しかしまだ憶測の域を出ない。欲しいのは確かな事実で、精密検査すら出来ていないのだ。 「ダウン中に少し診ていいか?あの人は起きてたら俺には診察させないでしょ」 「あ、それは……」 見られたらまずい、おっぱいがバレる。 「なんだよ、独占欲?それとこれとは別だろ」 色々とツッコみたいセリフだけど、そうでは無くて少将のおっぱいは国の重鎮しか知らないトップシークレット。 だけどそんな事をきっと想像もしていないだろう大佐は、同じ建物に住んでいるのだから間取りは勝手知ったるで、さっきと寝室のドアに向かう。 「や、待ってください」 「なんだよ、診察以外は何もしねぇよ、信用しろ」 「信用はしてますよ」 「じゃあいいだろ」 「良くないんですよ、色々と深い事情があって」 事情と言う言葉にドアに向かっていたクライル大佐は俺を振り返った。 「その事情と本人と、どっちが重い?」 そりゃもちろん本人に決まってる。 片方の眉を跳ね上げた表情は俺の返事を確信してる。 「絶対内緒にしてくださいよ……」

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