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第27話

翌朝、ベッドのガイ少将に近付いて魔力を流すと、少将はぼんやりと曖昧に瞼を開けた。 俺はベッドの上のガイ少将に片手を伸ばしつつ、身体は絨毯に額を擦り付けて土下座する。 思い通りにならないからと呆気なく手を離した俺は嫌われたろう、恨まれたろう。 魔物討伐では鬼神と呼ばれる人だ、自分に向かう刃を見過ごすはずがない。 しかし少将はため息一つ溢しただけだった。 「昨夜は脅すような事をして本当に申し訳ありません」 「いや」 あっさりした返事。 あぁ、そうか、俺は信用を失った。 そばに置くには相応しく無い人間として諦められたのだ。 いっそ死ぬ程にぶちのめされた方がまだいい。ため息一つで心が離れるなんて……。 「この上図々しいお願いで本当に救いようが無いのですが、どうか側に置いてください」 本当は消えてしまいたいけど、こうするより他に無いんだから仕方ない。 ブチ切れた俺の怒りさえ、少将のエベレストより高いプライドにあっけなく玉砕した。泣いて足掻いたって少将には敵わない。 頭を下げ続ける俺から少将は視線を外した。 自業自得だけど、突き刺さる。 「いや、起こしてくれてありがとう」 なんで怒りの一つも向けてくれない。 どうして。 どうして。 どうして。 朝食は軽い物が毎朝部屋に届けられる。 係の者が待って来たトレイを受け取ってダイニングに行くと、身支度を整えた少将が既にテーブルに着いていた。 「今日は全ての予定をキャンセルして退役の手続きに入る」 それは止めたい。だけど信頼を失った今、たかが軍曹が少将に意見なんて首が飛ぶし、そもそもガイ少将は雲の上の人で遠い存在なのだ。 少将は自分でフォークを持った。そしてサラダの野菜を突き刺して面倒そうに口に運ぶ。 そうなのか。 もう食べさせなくてもいいのか。 この人の欠点と言えば唯一依存体質が過ぎる事で、身の回りの事は一切自分でやらない。食べる事も面倒くさそうだし、食べさせてくれるなら食べると、そんな有様だったのに。 自分で食べる気になったのはいい事だけど、信頼と同時に仕事も減った。 「あの、精密検査は受けて貰えるんでしょうか」 恐る恐る尋ねると少将はため息を吐いた後で、約束だからと気が乗らなそうに頷く。 こんな事になっても約束は果たしてくれる、少将こそが信頼の塊。 「じゃあ、退職届けを出す前にお願いしたいんですが……その、検査機関を使う都合もあるので。ガイ少将の身分が変わると書類上の手続きが二度手間になり、事務がキレます」 「他人に迷惑をかけるのなら仕方ない」 性格上そうだろうなと思ってそういう言い方をしたのだけれど、これで食事の後すぐに検査を受けてくれるだろう。 ……虚しい。

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