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第37話

調査が終わった開放感で、帰り道は楽しかった。 水車小屋のお茶屋に立ち寄ると、居合わせた客達が一般国民には滅多にお目にかかれない対魔団の黒い制服に振り返って、ガイ少将に見惚れている。 「少将は何にします?俺は茶葉を粉にして溶かすやつが好きです。ミルクが入ってて甘くて美味しいんです」 「じゃあ私もそれで」 狭い二人掛けの席にわざわざ並んで座るのはとても狭くて、自然と密着するので魔力補充には便利だけど、周囲の人に関係を疑われる座り位置。 今更パーソナルスペース無視のこの距離にも慣れたけれど、やっぱり視線が痛い。 「ケーキも頼んでいいですか?ムースのやつがいいなぁ。少将はどうします?」 「私はこういう店に来た事が無いから分からないよ、同じのでいい」 言われてみればお貴族様は下々の立ち寄る茶店になど来ないから、キラリ星屑のアイス紅茶の香りとか、りんごの気持ちパイとかの名前から商品を想像出来るはずもない。 「じゃあ俺がチョコムース頼むから、少将はあんずの団子にして下さい。シェアしましょう」 ガイ少将は意味が分からなかったのか、小首を傾げた後で頷いた。 可愛い。 やがて注文が届いて、俺はご機嫌でお茶に口を付ける。 「楽そうだな」 「お使いに出て美味しいお茶を飲むって、最高のサボり時間じゃないですか?こういうの好きなんですよねぇ」 何しろ治癒では一日中走り回って仕事に追われる日々だった。しかもやって貰って当然の患者が多いので感謝すらされず、あれこれと注文ばかり多くて休憩もまともに取れない。 ここにも自分でやらない依存体質の患者がいるので、ムースをすくって一口食べさせると、少将は微妙な表情になった。 そして店内の女性スタッフから小さな悲鳴が上がる。 「口に合いませんでした?」 「いや、美味しいよ」 少将はゆったりと微笑んでくれたけど、こういう所が気遣いの人なんだよな。 人からすすめられた物は美味しいと言うのが礼儀です、みたいな。 あんずの団子の方を食べさせると、またしても店内に小さな悲鳴が上がって、気遣いの人のくせにその辺は気にしない少将は今度こそ頷いてくれた。 「これは美味いな、余計な物が入って無い」 「シンプルなのが好きなんですね」 「そう、なのか?」 「みたいですね」 好き嫌いまで人に聞かないと分からないくらい自分に関心が無い。 悲しい人だと思った。 それを振り切るようにムースと団子を食べると、少将が俺を見て笑ってる。 「なんですか?」 「シェアってそういう事かと思って。セレスはお得な事を思い付くな」 「こんなん、みんなやってますよ」 「そうなのか?私はやった事が無い」 そりゃ食べ物シェアなんて庶民のやる事で、お貴族様はしないだろう。 「セレスと居ると色々楽しいな」 そんな事を言って楽しそうに笑ってるくせに、俺の想いは受け入れてくれない人。 俺だって子供じゃないから無理と言われれば諦めるけれど、この態度とこの表情じゃ納得出来ない。 納得出来なくても無理なもんは無理だから諦めるけど、さ。 切ない。

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