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第112話 死の海
10ー8 死の海
「神子は、たぶん、神殿の神船で怪物のもとを目指している筈だが」
長が言ったので、俺は、長にすがるようにして頼んだ。
「そこに、連れていってくれ!頼む!」
「ああ?」
長は、俺のことをじっと見下ろしていた。
何か考えるような冷徹な目をしていたかと思うと、すぐに、長は、またあの人好きのする笑顔に戻った。
「いいだろう。こんな美人に懇願されてその願いを叶えてやらないわけには、いかんからな」
長は、俺の肩へとそっと手をかけた。
「とにかく、あんたは、船の中に入って。潮風は、体にあまりよくないからな」
俺は、長に連れられてもといた部屋へと戻った。
長は、途中で出会った乗組員らしい男に命じて、俺の部屋へと食事を届けさせてくれた。
「まあ、腹が減ってはなんとやら、だ。飯を食え、レンタロウ」
「飯なんて」
俺は、それどころじゃないと思っていたのだが、体は正直で湯気のたつスープを目の前にすると腹の虫が鳴いた。
俺が恥ずかしくて呻くと、長は、おおらかに笑って俺に食事をすすめた。
「さあ、飯を食え、レンタロウ。話は、それからだ」
俺は、すすめられるままに箸をとった。
うん?
ここは、箸なんだ?
異世界の中にも箸文化があったんだな。
俺は、妙なことに感心しながらも、出された食事を食べ始めた。
料理は、どちらかというと中華風のものだった。
俺は、あっという間に飯を平らげて一息つくと、茶器に入れられた花の浮かんだお茶を啜りながら、長に訊ねた。
「アメリ・・神子は、今、どこにいるんだ?」
「正確なことは、俺にもわからん。だが、たぶん、怪物の眠っている死の海へと向かっている筈だ」
「死の海?」
俺が訊ねると、長は、俺に説明してくれた。
「怪物の触れたものは、全てがマナを奪われ腐り落ちる。奴の封じられた場所は、生き物も住まない海の果てだ。もし、神子が封じることができなければ、世界の全てがマナを奪われ、腐り滅びることになる」
マジですか?
俺は、長を急かした。
「早く、神子の乗った船より早く、そこに連れていってくれ!頼むから!」
「ああ?」
長は、急に俺をひややかな目で見つめた。
「あんたの頼みはきいてやるんだ。今度は、こっちの頼みもきいてくれ、レンタロウ」
なんですと?
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