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第117話 会うべきじゃない。

11ー1 会うべきじゃない。 俺たちの乗った船は、何日もただっぴろい海原を航海していった。 最初、澄み渡り美しかった海の色は、だんだんと黒く淀みしまいには、異臭を放つ腐った水へと変化していった。 「どんな魔物でも住むことのできない死の海、それが怪物のすむ場所、だ」 長は、俺に教えてくれた。 「怪物は、この腐った海の底に封じられている。神子の力によってな」 「アメリは・・神子は、どうやってこの海の底の怪物を封じているんだ?」 俺が問うと長は、俺に告げた。 「神子は、その力で怪物の影響がこの世界に出ないように封じている。再び、封じるためには、神子は、封印の中に入らなくてはならない。つまり、そういうこと、だ」 そういうことって・・ 俺は、言葉を失った。 もしかして、アメリをこの海に突き落としでもするんじゃ・・ 俺は、アメリの身の上が心配だった。 封印の儀を行えば、アメリは、死んでしまうのだ。 それが、どんな死かは俺には、わからない。 だが、少しでも苦しまないことを、俺は、祈っていた。 だけど。 その前に、一目、アメリに会いたかった。 まだ、子供ができたことだって、たぶん、伝わっていない筈だった。 「アメリは?」 俺は、長に訊ねた。 「早く、アメリに会わないと!」 俺は、焦っていた。 一刻も早く、アメリのもとに行きたかった。 長は、俺を感情のこもらない目で見つめていた。 「恐らく、この辺りで神船に追い付けるだろうが・・」 俺は、長にきかれた。 「しかし、もし、追い付けたとしてあんたは、何をどうするつもりなんだ?レンタロウ」 俺は。 絶句して立ち尽くしていた。 俺は、アメリに会ってどうする気なんだ? 俺には、死んでいくアメリに何ができるっていうんだ? 俺は、泣くまい、と思っていた。 俺は、男なんだから。 みっともなく泣いたりしない。 だけど。俺は、涙を堪えきれなかった。 俺は、泣きながら、長に訴えた。 「会いたい・・アメリに、最後に、一目だけでも、いいから・・」 「だが、神子に会ってどうする?」 長は、俺に厳しく問いただした。 「神子を引き留めるようなことをして、どうするっていうんだ?レンタロウ」 「そんな・・」 俺は、嗚咽した。 アメリに会いたい。 でも。 俺には、わかっていた。 長の言う通り、俺がアメリに会ったからと行って、どうにもならないってことが。 泣きじゃくっている俺に長は、優しく声をかけた。 「あんたは、もう神子に会うべきじゃない、レンタロウ」 その言葉に、俺は、頷いた。 救えないのに会ってどうするっていうんだ? この世界を道連れにして、アメリとともに滅ぶのか? そんなことは、できないし、アメリだって望まないだろう。 それに、俺には、腹の子供たちだっている。 俺は、アメリと共に滅ぶことすらできないのだ。

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