117 / 123
第117話 会うべきじゃない。
11ー1 会うべきじゃない。
俺たちの乗った船は、何日もただっぴろい海原を航海していった。
最初、澄み渡り美しかった海の色は、だんだんと黒く淀みしまいには、異臭を放つ腐った水へと変化していった。
「どんな魔物でも住むことのできない死の海、それが怪物のすむ場所、だ」
長は、俺に教えてくれた。
「怪物は、この腐った海の底に封じられている。神子の力によってな」
「アメリは・・神子は、どうやってこの海の底の怪物を封じているんだ?」
俺が問うと長は、俺に告げた。
「神子は、その力で怪物の影響がこの世界に出ないように封じている。再び、封じるためには、神子は、封印の中に入らなくてはならない。つまり、そういうこと、だ」
そういうことって・・
俺は、言葉を失った。
もしかして、アメリをこの海に突き落としでもするんじゃ・・
俺は、アメリの身の上が心配だった。
封印の儀を行えば、アメリは、死んでしまうのだ。
それが、どんな死かは俺には、わからない。
だが、少しでも苦しまないことを、俺は、祈っていた。
だけど。
その前に、一目、アメリに会いたかった。
まだ、子供ができたことだって、たぶん、伝わっていない筈だった。
「アメリは?」
俺は、長に訊ねた。
「早く、アメリに会わないと!」
俺は、焦っていた。
一刻も早く、アメリのもとに行きたかった。
長は、俺を感情のこもらない目で見つめていた。
「恐らく、この辺りで神船に追い付けるだろうが・・」
俺は、長にきかれた。
「しかし、もし、追い付けたとしてあんたは、何をどうするつもりなんだ?レンタロウ」
俺は。
絶句して立ち尽くしていた。
俺は、アメリに会ってどうする気なんだ?
俺には、死んでいくアメリに何ができるっていうんだ?
俺は、泣くまい、と思っていた。
俺は、男なんだから。
みっともなく泣いたりしない。
だけど。俺は、涙を堪えきれなかった。
俺は、泣きながら、長に訴えた。
「会いたい・・アメリに、最後に、一目だけでも、いいから・・」
「だが、神子に会ってどうする?」
長は、俺に厳しく問いただした。
「神子を引き留めるようなことをして、どうするっていうんだ?レンタロウ」
「そんな・・」
俺は、嗚咽した。
アメリに会いたい。
でも。
俺には、わかっていた。
長の言う通り、俺がアメリに会ったからと行って、どうにもならないってことが。
泣きじゃくっている俺に長は、優しく声をかけた。
「あんたは、もう神子に会うべきじゃない、レンタロウ」
その言葉に、俺は、頷いた。
救えないのに会ってどうするっていうんだ?
この世界を道連れにして、アメリとともに滅ぶのか?
そんなことは、できないし、アメリだって望まないだろう。
それに、俺には、腹の子供たちだっている。
俺は、アメリと共に滅ぶことすらできないのだ。
ともだちにシェアしよう!