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― 動乱の王宮 ⑩

 部屋に戻り、扉を閉めた途端、堪えていた涙が溢れだした。  ずるずると座り込み、胸を抑えた。引き裂かれるように痛い。  もし、自分があのとき、一人で街に出なければ、こんなことにはならなかっただろうか。  もし、王宮にいるもうひとりの跳躍者に会いたいと言わなければ、リンデで暮らすことができただろうか。  すべて自分が蒔いた種でこうなったと思った。  いつも無表情で何を考えているかわからないけど、とても優しい人だった。  強くて、綺麗で、気づくとどきどきさせられた。  命を救ってくれた。  何でもいいから役に立とうと決めたのに。  もうイリアスの側にはいられない。  ただそれだけが海人にとめどなく涙を流させた。  あまりの胸の痛みに、海人は気づく。  いつの間に、こんなに好きになっていたのだろうか。  気づくと同時にもう会えないなんて、ひどすぎる。  海人は声を上げずに泣き続けた。

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