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― 巡る想い ②

 王都から帰る前、カイトはリンデの皆に土産を買った。シモンはそれに付き合っていた。駐屯地には王都名物の菓子や干物を、執事にはタイピン、給仕係の女には手鏡、肉屋のロイには鞄を買っていたら、すっからかんになったと嬉しそうに笑っていた。  シモンにはまた別の機会にお礼をすると言われ「別にいいのに」と言いつつも、内心嬉しかった。  帰路も順調だったが、リンデに帰り着くまであと二日というところで、野宿を強いられた。  そこでシモンはあることを知ってしまう。  そのとき、シモンは魔獣避けの香木を拾いに森に入っていた。 大体こんなもんでいいかな、と二人のところに戻ろうとしたとき、その会話を聞いてしまった。 「あのさ、イリアス。おれ、どうしても、訊いておきたいことがあって」  カイトが深刻に話しているので、シモンは思わず木の陰に隠れた。 「王宮で力の受け渡し、したじゃん」  シモンはそのときのことを思い出した。自分は隊長に遅れて着いたけれども、その光景はしっかり見ていた。  魔力の付与がまさか物理的な受け渡し、口づけだなんて思いもよらなかった。 (あれは……うん、見られたくないな)  カルの里でイリアスが自分とラダを追いやった理由がわかった。  竜飛来のときは一刻の猶予もなかったから仕方がないだろうが、それでも衆目は避けられるなら避けたい行為だ。  シモンはカイトが何を言うのか気になって、身を潜め続ける。  そして海人は意を決したように言った。 「あのとき、舌まで入れる必要あったの⁉」  シモンは危うく派手に香木を落とすところだった。 (え、ええ……⁉)    お怒りのカイトに、イリアスは平然と答えた。 「覚えていない」 「絶対嘘だ」  海人は頬を赤らめて、イリアスをにらんでいた。にらんでいるのに、どことなく可愛げがある。  シモンは空を仰いだ。 (あー……そっか。なんとなく、そうかなって思ってたけど、隊長、やっぱそうだったのか)  シモンは隊長ラブな部下なので、自分たちとカイトへの接し方の違いには気づいていた。  いつも無表情である隊長が、カイトに向ける目は常に優しかった。カイトに女が近寄ったときはなど、肌に刺さるようなピリッとした空気を出していた。しかしそれを恋愛感情だと確信するものはなかった。 (隊長とカイトかあ)  カイトも満更ではないというのが、帰りの道中でわかりやすく態度に出ていた。  シモンは敬愛する上官と仲の良い友人が恋人同士になることに、うれしい反面、何故か寂しい気もした。シモンの微妙な心をよそに、カイトはイリアスがまともに答えてくれないので、さらに文句を言っていた。 「おれ、あんなキスされたの初めてだったんだぞ! てか、キスも初めてだったのに!」 (!) シモンは慌てて身を乗り出した。 (待て、カイト! それは隊長を喜ばせるだけだ!)  海人は気づかない。 「あ! いま馬鹿にしただろ!」 「してない」 「わかるんだぞ、そういうの!」  シモンは頭を押さえたくなった。これではただの痴話喧嘩だ。 これ以上、隠れているのはよそう。隊長は自分の存在に気づいている。  シモンは木の陰から姿を現した。 「あの、すみません。俺、いるんで、もうやめて?」 「!」  海人は驚いて顔を上げた。会話を聞かれたことを知り、さらに赤くなる。  シモンは疲れた声を出した。 「隊長。俺、先に帰ってもいいですか……」  カイトは大慌てでシモンを引き留めたのだった。

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