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第16話
後部座席で行きと同様に寝ている神川先生の顔を見る。伏せられたまつげの影なんて見慣れているはずなのに胸が高鳴る。九条さえいなければ、先生に助手席に座ってもらって寝顔を横目に運転できるのだが……。
俺が神川先生に師事したのは十二歳の頃だ。俺の実家も元々は祓い屋をしていたが、両親は俺の力を見て、もっとレベルの高いところで修行させるべきと思ったらしい。そのくらい小学生にして力の強かった俺は日々の修行も退屈だったし、この業界で有名な神川というやつがどれほどの力を持つのか見てやろうくらいの気持ちで神川先生のところへ訪れた。
そこで神川先生を見た俺は胸の高鳴りを感じる。こんなに綺麗な人がこの世に存在するんだという驚き。繊細なまつ毛に縁取られた鳶色の目に見つめられると恥ずかしくてどうにかなりそうだった。しかしその第一印象は神川先生の第一声で覆る。
「おお、これが榊んとこの坊主か。確かに力はちっとばかしあるみてえだな」
大きな声、乱暴な言葉遣いと笑い方。この人はこの見た目でこんな風に話すのかと驚いた。もっと静かに、囁くように話すものだと勝手に思っていたからだ。
「よ、よろしくお願いします」
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