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第42話

 そういって夜食を啜る。しばしの沈黙。九条ならば無駄口を叩くだろうが、俺はやつと違って無口なので何を話して良いかわからない。もう十三年も一緒にいるのだから何か話したいことはあるんだろうけれど神川先生を前にするとそれが言語化できないのだ。 「……」  神川先生に師事して十三年。でも俺は神川先生のことを知らない。結婚してはいないようだが恋人はいるのかとか、そういう話は一切してこなかった……聞くのが怖かったから。俺の知らない神川先生を知って、落胆するのも、より好きになるのも怖かった。そんな俺の気持ちも知らず、神川先生は「おめえ結婚とかしないの?」とか聞いてくる。神川先生こそ何で結婚しないんですか?って聞き返せる性格ならよかったのに。 「結婚は……当分しないです、この職業に理解ある人じゃないと難しいですし」 「お前ぁ男前だからいっくらでも見つかるって」  そんなことを言うなら先生こそ綺麗だし黙っていれば寄ってくる女性もいそうなのに、と思うけれどやっぱり聞けない。もし実は離婚歴があって子供がいて……なんて話をされたら立ち直れそうにない。 「好きな人とかいないん?」 「えっ」

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