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第63話
神川先生が亡くなってから今この瞬間に至るまであっという間だった。俺はぼんやりと死後の手続きをやり、警察に事情を説明し、遺族に説明し陳謝した。遺族への謝罪は心からしたつもりだったが、それでも心のどこかはぼんやりと麻痺したような感覚があった。
麻痺。それが一番適当な表現だと思う。
心の大事な部分がこれ以上痛みを感じないように防御しているのだろう。
先生がいなくなってからずっとぼんやりしている。
「じゃあ、ここで」
お互いの家への岐路で別れようとすると、
「お前、大丈夫か」
九条が聞いてきた。
「別に後追いとかはしねえよ」
「そう言うことじゃねえよ」
「大丈夫だよ、多分」
「……お前んち行くわ」
「意味わかんねえ」
そう言いつつも断ることができなかった。同じ目線で神川先生を知っているのは九条だけだ。今夜は思い出話でもしたい気分だった。
残されたものは寄り添っていくしかない。
俺と九条はコンビニでビールとつまみを買って家へ帰った。
「おっじゃましまーす」
俺のマンションに九条を入れるのは十三年の付き合いの中で初めてだ。
「やっぱり部屋綺麗だなお前は」
「汚すなよ」
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