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第64話

「わーってるって」  ソファに座ってビールを開ける。 「じゃあ、先生に献杯」 「献杯」 「……」 「しかし盛大な葬儀だったなー」 「だな、本人は不本意だろうな」 「生前から葬式は地味にやりたいって言ったもんな」 「まあ葬儀なんて生きてる人間のためにやるもんだからな」 「先生、恋人と今ごろ会えてるかな」 「会えてるんじゃねえの、死後の世界なんて知らねえけど」 「そうだな……」 「お前さ、先生のどこが好きだったんだ?」 「……わかんねえ。最初はすごく綺麗な人だと思って、でも中身がまるで普通のおっさんだったんだよなあ」 「やっぱり見た目かね」 「いや……なんて言うんだろうな……最初は見た目だったかもしれないけど、本当に好きになったのは……先生が左目を怪我した時だろうな」 「……あの時か」 「あの時、全然俺のこと責めないし、心の奥底から俺のこと悪くないって思っててさ、そう言うところが好きだったなあ……好きだった……好きだったんだよ……」 「……」  九条が俺の肩を抱く。同じ痛みをわかってくれる唯一の存在。俺たちはこれから寄り添って生きていくしかない。同じ欠落を抱えて。 「榊……」

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