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第65話
そう言って九条が俺にキスをする。触れるか触れないかの優しいキス。先生と同じ煙草の匂いがする。多分九条も同じ匂いを嗅いでいるのだろう。
「九条……」
キスは深まる。お互いの舌を舐め合いながら、お互いの存在で欠落を埋めようとしている。でも同じ欠落同士は重なることはあっても埋まることはない。
「……ん……」
九条が俺の服を脱がしにかかる。俺は特に抵抗せず、されるがままだ。さっき九条が俺の家に来ると言った時点で俺は無意識にこうなることを予想していた。あの大嫌いだった九条と体を重ねる未来を。
喪服のスーツを脱がし、ネクタイを外す。シャツは肌に張り付いていた。ボタンを開けてゆっくりと脱がされていく。九条は丁寧に壊物を扱うみたいに俺を扱った。いつものガサツさが嘘のようで、おかしくて思わず笑い出しそうになってしまう。
そのまま下も脱がせ終わると、いつの間にか九条も喪服を脱ぎ捨てており、お互い全裸になっていた。初めて見る九条の肢体はしっかりと筋肉がついていて、いつものだらしない様子からは想像がつかなかった。俺は不覚にもドキドキしてしまう。九条なんかに。
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