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第96話

「犯人は物理的にこの箱を持ち去ったようですね」  物を空間転移させるような術もあるのだが、それは使わなかったことになる。もっとも例の箱のような強力な呪物に術をかけたらどうなるかわからないので賢明な判断と言える。  例の箱を保管していた金庫はごく一般的なもので、ダイヤルを回すと開錠する古いタイプだ。 「このタイプなら鍵開け出来るやつはその辺にいんだろうな」  九条が言う。 「そうだな。この箱を持ち出した犯人が術者だとすると、鍵開けができる術者なんて心当たりもないし、いわゆる「解錠師」って奴に手伝わせたんだろう」 「解錠師はおそらく中身を知らぬままこの仕事を手伝わされたんだろうな、俺なら怖えから絶対引き受けねえ」 「……警察に金庫破りが得意な人間のリストをもらって聞き込みするしかなさそうだな」  俺は地元の警察と連絡を取り、警視庁と連携して日本全国の服役していない解錠師をリストアップして所在を確認し、昨晩のアリバイ調査をするよう依頼をした。その数百三十二人である。調査の結果、所在不明もしくはアリバイのない解錠師のところへ式神を向かわせ、事情を聞くことにした。

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