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「もしもし萌衣?」
『――――』
「うそっ、信じらんねえ!」
電話の相手、萌衣はワンコールで電話に出た。相手によって態度を変える、そのあざとさと作られたわざとらしい鼻声に吐き気がする。
「今から出て来れねえ?」
「ちょ、柴田。いいから代われ!」
『――――』
「うん、そう。カラオケ」
ちょっと派手な格好をしたらなんだかモテてしまったようで、形だけの軽音楽部の連中は俺をダシにして女の子を遊びに誘いたがった。
俺はただバンドがやりたかっただけなのに、なんでこんなことをしてるんだろ。先輩たちが卒業して三年生になったら部長になって、ちゃんと練習をするつもりだったのに。
『『『『『じゃんけんぽん!』』』』』
『うわっ、マジかよ!』
『はい。高橋の負けー。高橋、部長決定な』
『うげっ!』
なのに、いい加減なのはどうやら先輩だけじゃなかったようで、高校生活最後の年の部長まで無情にもじゃんけんで決められてしまう。結局は活動らしい活動をほとんどしないまま、高校生活最後の年を迎えてしまった。
「うん。高橋もいる。なんかギャーギャー吠えてるみたいだけど気にしなくていいよ」
練習しようって言ったって無理だ。そんな雰囲気じゃないまま、一年生の時からずるずると軽音楽部に居座っている俺。見た目のわりに小心者でヘタレな俺は、みんなに異議を申し立て、はぶられることがただただ怖かった。
『――――』
「うん。じゃ、いつもんとこね。こっちもいつものメンバーだから、4、5人友達を連れて来てよ」
そうやって今日も流されてしまう。俺は心の中で誰にも気付かれないように大きな溜め息をつき、表向きはただへらりと笑った。
「どうだった? 萌衣、来るって?」
「うん。友達も連れて来るってさ」
「なんだよそれ。俺が電話した時は電話にも出なかったのに!」
「イケメンは得だねー」
「まあまあ高橋。柴田のお陰で女の子たちと遊べるんだからさ」
俺以上にチャラチャラした見た目の連中に囲まれて、その集団の中央で笑っている俺。なんだかそれが申し訳なくも思うけど、意見してこの場をシラケさせるわけにもいかない。
内心は不必要に注目されていることに萎縮 しながらも、表向きは何食わぬ顔で周りに倣 った。
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