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「――――」 「部屋、201号室だって」 「高橋。さすがにLINEは拒否られねーだろうから、萌衣に部屋番送れば?」  なんだよそれとぶうたれながらも携帯に向かう高橋を放っておいて、エレベーターに乗り込む。数秒の移動でドアが開くと、ドアの向こうに高校生らしき女の子たちが立っていた。  俺たちの見た目に弱冠引き気味ながらもまるでモーセの杖で海面を突いたかのように道を空けてくれ、彼女たちが乗り込んだエレベーターのドアが閉まる瞬間に、何やらかっこいいだとかなんとか口々に言い合っている声が聞こえた。 「今日の罰ゲームはどうする?」 「んー、そうだなあ」  移動する道すがら、窓越しにちらちら見られる不躾(ぶしつけ)な視線が地味に突き刺さる。とにかく目立っているのは自覚してるが、本当のところは酷く居心地が悪い。  201号室は二階の1番という番号のわりに一番奥にあり、部屋へと移動する間中、俺たちは動物園の珍獣扱いだった。それでも取り敢えずは歌えるのだけは有り難い。  そう思いながら奥へ進むうち、思い掛けない曲がとある部屋の中から漏れ聞こえてきた。 「これ……」 「あん?」 「柴田、どした?」  ――間違いない。 「……ドロップ・アウトだ」 「ドロップ・アウト?」 「なんだそれ」  ドロップ・アウトとは、道内のインディーズ・レーベルで急成長を遂げている高校生がメインボーカルとギターを担当している3ピースバンドだ。アマチュアの彼らがメジャーデビューしているはずはなく、彼らの曲がカラオケに入っているはずもない。  ということはもしかして、部屋の中から直接、生歌が聞こえているんだろうか。つまりはこの向こうでメインボーカル&ギターの……、 「K(が歌ってる)?!」  慌てて部屋を覗き込むと、男が一人、こちらに背中を向けてアコギを抱えて歌っていた。 「うそ。マジ?!」 「なに柴田。どうしたんだよ」  軽くパニックを起こしている俺を高橋たちは、怪訝(けげん)な顔で見遣ってくる。 「ドロップ……、いや。なんでもない」  そう言えばメジャーで売れ線のバンドしか聞かないこいつらが、一部のマニアにだけ大人気のドロップ・アウトを知っているわけがない。  すぐにでも部屋に飛び込んで声を掛けたいのをぐっと堪えた俺は、高橋たちとその部屋の隣室である201室へと足を踏み入れた。

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