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 正直、あれは本当に最悪だった。軽音部員は全員が幽霊部員で誰一人として練習もしないくせに、こぞってギターやボーカルなんかの花形パートを担当したがる。そんななか、ドラムを叩くことができるのは俺だけだった。  ドラムセットに座ってペースを作り、必死でメンバーをまとめようとしたけど無駄だった。それぞれが音を出すのが精一杯で、周りになんか目を向けてはいられないやつらばかりだからだ。 「あのさ。柴田の親父さんって、ひよっとして柴田(みつぐ)?」  どうしようもなくうなだれていたら、不意に思いもよらないことを聞かれた。  目の前の男は、見れば見るほど普通の顔をしている。不細工とまではいかないが、少し釣り目の小さな目は笑うとなくなって、なんだかそれが可愛く見えた。 「あ、うん」 「やっぱり!」  それから、 「だから柴田も軽音部に入ったんだ?」  独り言とも質問とも取れるように呟いて、おもむろに顔を上げる。  もしかして、Kは親父のことを知っているんだろうか。音楽マニアの間では親父がうちの学校の軽音楽部を立ち上げたのは有名な話で、伝説のような美談になっている。 「実はさ。俺もうちの軽音楽部に入るために、うちを受験したんだよね」  Kはそう苦笑いながら手にしたアコギをコンクリートの地面に大切そうに置いて、その場に寝転がった。  まだ少しだけ肌寒いものの、柔らかで暖かい陽射しを浴びて軽く伸び上がる。眼鏡を外して傍らに置き、おもむろに目を閉じるK。  気持ち良さそうに目をつむるKは、少しだけ自分のことを話してくれた。九州の地元を出てわざわざ北海道の高校を受験したのもうちの学校で音楽をやるためで、今は学校近くのアパートで一人暮らしをしているそうだ。  進学先は俺と同じように子供の頃から決めていて、一応は軽音の部室も覗いてみたらしい。それがあの有様で、即座に入部をやめにして、個人的にバンドを組んで活動を始めた。そのバンドが『ドロップ・アウト』だ。  俺は軽音に執着するあまり、バンドを組むのを忘れてしまった。よくよく考えればKのように、プライベートでバンドを組んで活動すればいいだけの話なのに。がっくりうなだれる俺にKは笑って、ゆっくりと身を起こす。 「あのさ……」  それから俺に向かって、信じられないことを言ってきた。

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