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「なあ、柴田。一緒にバンドやらねえ?」
「え」
一瞬、その言葉の意味を考えて、
「ええっ?!」
思わず座り込んでいた地面から立ち上がり、そんな奇声を上げてしまった。
「ぶはっ。驚きすぎ」
「え、えっと、俺と?」
そんな俺に笑って、事もなげにそうだよなんて言われてしまい、
「うん。やろうよ」
続けてそんな男前なお誘いを受け、思わずその場で固まってしまった。
(え、えっと。Kに誘われたんだよな、俺。バンドやろうって)
まだパニックで現状が把握できない俺は返事もできなくて、
「いや?」
あのKから、そんなことを言われてしまう。
「嫌だなんて滅相もない!」
慌てふためいて言い繕 うと、今度は大笑いされてしまった。
信じられない展開に面食らったけど、結局、
「ふつつか者ですが……」
「ぶふっ。こちらこそ」
Kと一緒にやることに。
いくらか暖かくなった風が優しく髪をなびかせた。誘われて了承したもののまだ信じられない俺をよそに、Kは鼻歌混じりで空を仰 ぐ。
Kと話して気付いたこと。Kは意外に笑い上戸で、俺の顔を見るたびに何やら思い出し笑いを噛み殺している。それから平凡なのはどうやらその見た目だけで、Kは考え方やら行動やらの全てが非凡で男前だった。
学校以外の生活、全てをバンド活動に宛て、その活動を充実させるために学校では優等生をやっているんだそうだ。万が一、補習や何やらで放課後も学校に縛られたらバンド活動にも響くし、父親との約束で勉強もきっちりやることを条件に北海道での一人暮らしを許されたのもあり。その正体を隠すためにもがり勉を装って、実際に学校生活全てを学習に宛てている。
休み時間は予習と復習に宛て、昼休みだけはこうやって屋上で息抜きがてらにギターを弄 る。放課後は課題を済ませてから下校して、真っ直ぐバイト先や音楽スタジオに向かうんだそうだ。
ギターは駅のコインロッカーに保管していて、駅のトイレで制服を私服に着替え。それから、金髪に近い茶髪のヅラをかぶってKに変身する念の入りようだ。
「学校での俺と音楽やってる俺は別人だからさ。まあ、スイッチの切り替えみたいなもんかな」
そうやって悪戯っぽく笑うところも、俺にはたまらなくかっこよく見えた。
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