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Chapter3... 屋上をステージに
どうしてもっと早くこうしなかったのか、自分の馬鹿さ加減に思わず笑ってしまう。
『ごめん。本当にごめん!』
『いいってば。柴田、頭上げろよ』
『そうそう。うちはもともと活動らしい活動はして来なかったんだから』
『ははは。ライブやる時は呼んでくれな。あと、カラオケには今まで通りに一緒に行こうぜ。おまえがいなきゃ女子が来ないからな』
『こっちのことは気にすんな。なんとかなるだろ』
軽音を辞める時もこんな調子で、快く俺を送り出してくれた。慧に誘われるまでは軽音にしがみついていた俺は、言ってみれば皆を裏切って退部したことになるのに。
結局、4人になってしまった軽音楽部は本格的な廃部の危機に陥ったものの、顧問がついたことでなんとか廃部は免れた。顧問はうちの軽音楽部のOBの英語教師で、きちんと活動をしていくように決まったようだ。
そうなることを望んでいた俺は少しばかり後ろ髪を引かれるも、慧とやっていくことに決めたから二足の草鞋は履けない。顧問がついたことで新入部員も確保できそうだと、部長でもある高橋は照れ臭そうに笑った。
風薫る5月を間近に控え、浮足立って見上げる空。雨の予感に駆け出して、シンドロームに足を向ける。シンドロームとはドロップ・アウトのベーシストのシンの実家の美容室で、今日はそこで慧と待ち合わせをしている。
自然と足が早足になる。逸る気持ちを抑え切れない。何度か慧たちと即興でセッションしてみたが、決して大袈裟じゃなくバンドでの演奏の醍醐味を知った。
それまでの俺は遊びで同級生とバンドを組んだことや父親ほどの年齢の人とセッションしたことぐらいしかなくて、初めて心からバンドをやる楽しさに酔いしれた。
「うわっ、もうこんな時間!」
今日は日曜日。スタジオ入りするのは決まって夜の8時からで、シンこと朗 さんはまだ仕事中のはずだ。今日は何をするのかも聞かされていないが、おそらくは変装するために髪をなんとかするんだろうと察しがつく。
慧は正体を隠して活動していたし、それにならって俺もそうすることに決めた。それにはこの不必要に目立つ容姿が邪魔になる。
慧はKに変身する時はいつも金髪のヅラを被っていて、そのヅラは朗さんが見立てたものらしい。おそらくは俺もそうするんだろうなと、人ごとのように思いながら行く道を急ぐ。
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