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 駅前の繁華街から少し逸れたお洒落な路地の一角にそれはあり、薄い水色の外観が人目を引く。取りあえずは伊達眼鏡なんぞで軽く変装してみた俺は、 「こ、こんちはー」  少々緊張気味にドアを開けた。  この店の客層は男女の比率が半々で、とにかくお洒落な客が多い。大きな荷物を抱えた俺はいつも以上に注目を浴びてしまって、あまりの居心地の悪さにたじろいだ。  常日頃からカッコイイだのなんだの騒がれているわりにヘタレな俺。しっぽを巻いて一目散に逃げ帰りたい気持ちをなんとか抑えて、 「えっと、予約してた柴……」 「よう。弓弦」  受付で名前を告げた瞬間、店の奥から朗さんが顔を出した。 「あ。朗さん、こんにちは」 「ぶっ、また『さん』づけかよ」 「あ、う。す、すみません!」  朗さんは俺と慧よりも年上の二十歳で、子供の頃から大人に囲まれて育ってきた俺はついつい敬語を使ってしまう。それでなくとも憧れのバンドのメンバーだったんだから、この癖はそうそう抜けそうもない。 「まあいいけどな」  男前の顔で口角を軽く上げて笑うと、 「ということで早速……」 「え、え?」 「あ、朗さん。その人が新しいヘアモデル?」 「ん? ああ。まあな」  俺の腕を掴むと俺を店の奥へと連れ込んだ。  朗さんは美人という言葉が似合う男前で、背中まであるストレートの黒髪は後ろから見れば美女に間違われることもある。実際に女にも見えないこともなく、その長身じゃなければまんま女にも見えた。  涼しげな目は少し釣り目がちな一重で、日本美人といった言葉がしっくりくる。なのにベースを弾く姿は鬼気迫るものもあり、どちらかと言えば圧倒的に男のファンが多い。  それはKこと慧にも言えて、ドロップ・アウトのファンの大半は男だった。かくいう俺もファンの一員だったわけだけど、そこに俺が入って俺も男受けするかが少し不安だった。  自分で言うのもなんだけど、俺はどちらかと言えば女受けする顔をしている。言ってみれば古い言葉だと甘いマスクをしているというか、つまりは少しチャラく見えるイケメンってとこだ。  この顔をなんとかしたいと朗さんに相談したら、次の日曜日に店に来いと言われて今日に至る。 「おまえ、ドラマーのくせにほっせえ腕してんなあ」  俺の腕を掴んだ朗さんが不意に振り返り、意味ありげに笑った。

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