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日曜日の昼下がりだからか客の出入りが激しいようで、裏まではしゃいだような明るい声が聞こえてくる。俺たちは忙しく立ち働く従業員スタッフの間を抜けて、奥のスタッフルーム脇までやってきた。
「朗さん、どこへ……、あ」
「よう。やっと来たか」
部屋の隅に用意されたスタッフの練習用スペースの一つに、慧が雑誌を片手に座っていた。
「これのメンテナンスと、ついでに髪を少し切ってもらおうと思ってさ」
そう言えば慧の前髪は目を隠すくらいまで伸びていて、長い前髪と眼鏡に隠された表情は窺 えない。傍らに金髪のヅラを置いて、慧は真ん中の椅子に座っている。
「ほら。おまえはこっち」
その隣に促され、朗さんに肩を押されるままにそこに座った。座ったすぐに髪を弄られて、僅かに胸が跳ねる。
「うーん。どうしようかなあ」
朗さんは俺の真横、俺の顔に自分の顔を寄せると、鏡越しに俺の顔を真剣に見てくる。これが仕事なんだってわかってるけど、いつもこの瞬間は緊張するんだよな。
なんたって一番好きで崇拝するバンドのベーシストがこんな近くにいるんだから、緊張するなってほうが無理な相談なわけで。
「んー、いっそ染めるか」
「え」
不意にそう言われて、思わず間抜けな声を出してしまった。朗さんが俺の髪を弄りながら、そんなことを言い出したからだ。俺は慧のようにライブ中だけヅラを被って正体を隠すものだと思っていたし、自分の髪をどうこうするとは思っていなかった。
「ライブ中にヅラが外れたらあれだし、ヘアスプレーで髪色を変えても汗で落ちないとも限らないからなあ」
うーんと唸 ってそう独りごちると、朗さんは何かの準備を始めた。
俺が正体を隠して活動した方がいいと思ったのは、慧の正体が公開されていないからだ。MCやらなんやらでまだ高校生らしいことは知られているが、慧はその素顔から素性まで全てを隠して活動していた。
なら、俺も慧と同じに隠したほうが活動しやすいと考えた。なんて短絡的なと思われるだろうけど慧と同じ学校だし、俺から慧の素性が知れるのは目に見えている。俺から慧の素性が知れてしまうのも避けたかったし、それより俺には、柴田貢の息子だという肩書とこの顔もある。
親の七光りや顔でファンがつくのは我慢できないし、俺はできれば実力でやっていきたい。普段はヘタレなくせにきっぱりそう言うと、朗さんは口角を上げてにやりと笑って協力するよと変装する手伝いを買って出てくれた。
のはいいんだけど……。
「どうだ。懐かしいだろ」
「……えーと、朗さん?」
全てが終わって鏡を見ると、確かに懐かしい自分がそこにいた。
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