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 えーと。懐かしいというか、なんと言うか。髪を黒くしたのは三年ぶり、つまりは中学生の頃以来だ。  どんな髪になるか密かに楽しみにしていたのに、何故だか前髪だけは残して両サイドと後ろを短く切られた上に、髪色を黒に戻されてしまった。 「朗さん、これって……」 「おまえはドラマーだからな」  ……は?  話が見えないんですけども。 「慧のようにヅラにするとライブ中に取れたらあれだろ。おまえは激しく動くしギタリストの慧のようにはいかないからな。ライブはその頭で行け。つまりは逆転の発想だ。要するにライブはその頭で、学校や日常ではヅラを被ればいいんだよ」  そう言って、切る前の髪に限りなく近いヅラを手渡された。 (それより朗さん。ヅラって!)  音楽やってる朗さんならありだけど、カリスマ美容師としてはどうよ。案の定、俺らのそばを横切ったスタッフがびっくりした顔をしていた。  つか、そう言えばスタッフには顔を知られたな……、って、音楽好きでアマチュアのライブに行くようなやつに正体を知られなきゃいいんだっけ。  ほらもういいぞと言いながら椅子から立たされて、朗さんはまだ長い俺の前髪を軽く摘んだ。先にカットが終わった慧は手持ち無沙汰に手元の雑誌をめくりながら、俺たちのやり取りを見てニヤニヤ笑っている。 「つかさ。イケメンはどんな髪でもイケメンだねえ」  それ、朗さんが言いますか。そのまんま、その言葉を朗さんに返してやりたい。  髪型だけは流行りとは程遠いロック仕様だけど、朗さんの美人っぷりと言ったら俺なんかは足元にも及ばない。女ばかりか男でも振り返るとか、しかも性格はかなりの男前だ。  結局、俺は髪を黒く染められて、この頭でライブに出ることになった。長めのまま残した前髪は顔を隠すためで、他を少し短くしたのは学校ではチャラ男仕様のヅラを被るためだ。  なんと言うか、慧とは正反対になってしまった。学校では相変わらずチャラ男を装いつつも、ライブではなるべく目立たない作戦らしい。 「おまえが目立つと女のファンが沸くからなあ」  それはそれで嬉しいけどと、女好きな朗さんはやらしい顔で笑い飛ばした。

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