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お店のシンボルでもある、朗さんのお父さんがデザインした柱時計が午後3時の時報を告げる。それからもそんな感じの馬鹿話をしつつ、朗さんが俺の普段仕様のヅラを調整してくれた。
「すげ……」
「こことここをパチッと留めとけば、まず外れることはないから。激しい運動とか水泳だけ避けとけば大丈夫」
用意してくれていたそれを着けた状態で少しだけハサミを入れたら、それだけで髪を黒くする前のチャラ男仕様の髪型に戻ってしまって驚いた。
「家族に説明するのが面倒なら家族の前でもヅラで通せばいいし」
朗さんはそう言って笑ったけど、これはマジでバレないレベルのような気がする。毎朝、一応は鏡で自分の顔を見慣れてる俺でさえ、見た目には全く違和感がない。
ただ、慣れるまでは少し時間が掛かりそうで、装着してる感も拭い去れない。頭に違和感を感じながらもCMのように髪を一束引っ張ってみたら、髪を引っ張られる感はあるのにびくともしなかった。
さっき、慧が思わず『すげえ』って漏らしたけど、さすがはカリスマ美容師だ。朗さんがセットしてくれていた髪型だからか、いとも簡単に復元してしまった。
いつも朗さんにセットをしてもらってるけど、それにしてもこの腕前は神懸かったものがある。全てが終わってヅラを装着し、チャラ男バージョンで店内に戻ると他のスタッフに怪訝な顔をされてしまった。
「ありがとうございましたー」
怪訝な顔に笑顔を無理矢理貼り付けた受付スタッフに見送られて店を出る。
「……ぶっ」
ヅラが気になって仕方なくて、ワシャワシャやってたら慧がおもむろに吹き出した。どうやら笑いのスイッチが入ってしまったらしく、いつまでも肩を小さく震わせて笑っている。
「あ、えーと……」
なんて言っていいか分からずに狼狽 えていると、
「ぶっ……、わはははは!」
たまらず慧が笑い出した。肩を大きく揺らして腹を抱えて、腹筋をフルに使っているのが分かる。
ヅラを被ってバンドマンに変身する慧と、ヅラを被ってチャラ男に戻る俺。
「ああ、おかし。マジ、弓弦といれば腹筋を鍛えられるわ」
笑いを押し殺してそう言うと、慧は目尻に溜まった涙を指先でそっと拭った。
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