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取りあえず見た目には来た時と同じの俺は、
「じゃ、行こっか」
そんな慧の後ろを追う。ひとしきり笑った慧はもう気が済んだのか、いつものどこか飄々とした顔をしている。
「え。どこへ」
「Kに変身しに」
そう言えば今日は慧も髪を切ってもらっていたけど、今はまだ学校バージョンの慧だ。バンドの練習でスタジオ入りする時はいつも既にバンド仕様なんだけど、今日はもしかして俺を待っていてくれたんだろうか。
そういやどこで変身してんだろうと、ふと疑問に思う。相変わらず無言で無表情の慧は、どうやら学校近くの最寄駅へと向かっているようだ。
「ここ」
駅構内の外れにある人気の少ないトイレの前で足を止めて、慧はそこを指差した。
「ここ?」
「そ」
日曜日だから人出もそれなりに、駅も人出でごった返している。そんななか、このトイレはどうやら穴場のようで、俺自身もこのトイレの存在を知らなかった。
普段、皆が使っているトイレは駅構内の改札近くの飲食店のそばにあり、このトイレはコインロッカーの奥にある。いくつも並んだコインロッカーに隠されているけど、見た目には改札近くのトイレよりも真新しい。
トイレの近くにはエレベーターがあり、どうやら駅ビルに入っている企業や各店舗の従業員が使っているようだった。だから通勤の時間帯を避けると誰かに出くわすこともなく、日曜日の昼下がりである今も当然、人気 はない。
中に入ってみると男子便所にも化粧スペースのような洗面所があって、個室も余裕があって広かった。トイレに入る前に、慧は一つのコインロッカーを開ける。そこはゴルフセットなんかも入るような縦長に大きなロッカーで、慧はギターと着替えをそこに置いていた。
このコインロッカーもトイレ同様に人気がない。なるほど、これなら誰にも気兼ねしないで変身できるってわけか。
洗面所で俺は朗さんに調整してもらったヅラを取り、初めてバンド仕様に変身してみた。軽く髪型を整えてから、長めの前髪で顔を隠してみる。
確かに、これならいつもの金髪もどきの髪型ほどは目立たない。慧と一緒にステージに立ったとしても、慧より注目されることもないはずだ。
前髪を弄ってそれなりに整えていると、個室を開ける音がして、バンド仕様の慧……、もとい。Kが目の前に現れた。
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