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一瞬、その姿に見惚れる。目の前に立っている慧は、どこから見ても俺が敬愛してやまないカリスマギタリストのKだ。
慧は鏡の前でヅラの髪をある程度整えると、ポケットからおもむろに何かを取り出した。取り出したのはコンタクトレンズが入っているケースで、目の前で慧がそれを目に入れ始める。
思わず見入ってしまった。コンタクトって、あんなふうに入れるんだ。
うわー、俺には無理かも。尖端恐怖症だから。
そんなことを考えていたら、レンズを入れ終えた慧がこちらに向き直る。
「それさ。外せる?」
「え?」
「ピアス」
「あ」
忘れてた。外さなきゃ。少しだけサイドを短くしたから。今までは髪に隠れて見えなかったけど、今は結構、目立つかも。
「ピアスはチャラ男の基本だったからなー」
一つ一つ外しながら自嘲して笑ったら、
「……てっ!」
苦笑った慧に額をぺちんと叩 かれた。
慧はいつも、俺が自分のことをチャラ男だと自虐的に言うたびに微妙な顔をする。家では一応ちょこちょこやってはいたけど、家以外ではバンド活動をサボって遊んでばかりいたし、チャラ男って呼ばれても仕方ないんだけど。
そのたびに頭を軽く小突いて、
『ちゃんと練習してたろ。見ればわかる』
とかなんとか嬉しいことを言ってくれる慧には、いつも惚れ惚れしてしまう。こちらを見ずにぶっきらぼうにそう言い捨てる、その様子がまたかっこいいのだ。
「それ痛くないの?」
軟骨に空けた少し大きめのゲージのボディーピアスを外していたら、慧にそう聞かれた。
「うん。全く」
そう言えば、慧はアクセサリーの類 は一切身につけてなくて、ライブでもいつもそうだ。
「それよりコンタクトの方が痛そう。目に異物を入れるなんて信じられない」
俺がそう言うと、慧はまた小さく笑った。
変身が終わった俺たちは、ロッカーから荷物を取り出して駅を出た。慧はヅラを被ったのとシャツを少しだけ派手にしただけで、ギターケースを抱えていること以外はさっきと変わらない。
「弓弦は荷物置いとかねえの」
ふと気付いたようにそう言って、慧が足を止めた。
慧が足を止めたのはファストフードのハンバーガー屋の前で、
「……あ」
条件反射的に、腹の虫がぐうと鳴る。
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