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 そんな姿に思わず見惚れる。バンドマン仕様の慧は本当に本当に、文句なしにカッコイイ。いつもは目立たない平凡で地味めな顔も、音楽の話になると顔付きまでも変わる。 「ん?」 (……あ、いかんいかん。思わず)  慌てて慧から視線を外したら、 「……ふ」  またまた軽く笑われた。  身長も体格も、俺より少しだけ華奢で小柄な慧。小柄だと言っても俺より数センチ身長が低いくらいで、そんなに変わりはないんだけど。 「弓弦さ。もしかしてメタルかパンクバンドやってた?」 「……あー」  慧が抱えているギターケースはハードケースと呼ばれているもので、ギターを守るために木の枠組みでできている頑丈なものだ。初心者ご用達の持ち運ぶことだけを目的とした合皮でできたソフトケースとは違い、ケース自体の重さもそれなりにある。 「自分専用の器材を持ち込みしてるのってさ。貸しスタジオの器材を壊してしまった過去があるからじゃないの」 「いやー、あははは」  恐らく肩凝りはそこからきていて、ギタリストの職業病のようなものだ。 「パワー系?」 「んー、まあ……。中学ん時にね。スラッシュっていうか、ハードコアっていうか」※1  その点ドラマーは全身運動で、全身が筋肉痛になることはあっても凝り固まる系のそれはない。 「……ぶっ。メタルかパンクかどっちだよ。鉄アレイとかな感じ?」 「んー、もっとベタで軽めな感じ。ラフィンとか」※2  それにしても、慧と音楽の話をするのは楽しかった。軽音部のメンバーと話している時とは違い本音で話せるし、音楽の趣味も合う。 「激しめのやつ(音楽)ってさ。一度は誰もがやってみたくなるものかもな」  俺もガキの頃にやってたなと笑う慧は、俺と同い年とは思えないぐらい大人びて見えた。  バンドを始めたばかりの頃は、とにかく激しい音楽をやっているとそれなりにちゃんとやれている気がしてくるものだ。ギターのテクニックも皆無な頃は、とにかくギターをジャランと掻き鳴らすだけでロックな音楽をやれている気がしていた。  だから、激しめの音楽をやることはロック好きな男子の誰もが一度は通ってくる道で、慧も同じだったことが嬉しかった。こうやって一緒にバンドをやっている今も、やっぱりKは俺にとっては特別だから。  食欲も満たされてリラックスしたところで、 「ほんじゃ、行きますか」  腹ごなしに一暴れしますかと笑う慧と二人、いつものスタジオへと向かった。 ※1 それぞれスラッシュ・メタルとハードコア・パンクの略。どちらも破壊的な爆音を放つ音楽ですが、それぞれメタル・ロックとパンク・ロックでジャンルは違います。 因みに慧が弓弦に聞いている『パワー系』は、だいたいはパワー・メタルを指しますが、爆音を放つ破壊系の音楽ってことで。正しくは『ハード系』だと思われますが分かりやすく記述しています。 ※2 鉄アレイ&ラフィン 日本が誇る伝説のハードコア・パンクバンド。因みに『ラフィン』は略称です。

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