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 俺たちが利用している音楽スタジオは楽器屋の地下と二階にあり、この辺ではここにしかない。もともとがうちの学校の周りは住宅街で、どうやら学生街の東京某所のようにはいかないらしい。  有名大学や中学、高校が集まる一帯は、道内でもバンド活動も盛んであちらこちらにライブハウスも音楽スタジオも点在してるんだけど。この辺りは少ないから親父がロック喫茶を始めたぐらいの不毛地帯で、このスタジオは大人が趣味でやっているバンドの利用が多かった。 「部屋代が一時間に3500円か。ちょっと痛いよね」  一応、ここはレコーディングできるブースも別料金で借りられる貸しスタジオで、設備も真新しくて整ってるんだけど。三人で割り勘にしても一人あたり一時間に1166.6666……、円。これは痛い。  一回の練習に三時間借りるとしたら、一回練習するごとに一人あたり3500円か。週二でスタジオに入るとしたら……。とにかく、音楽をやっていくにはお金がかかって仕方ない。  スタジオ代を捻出するために、慧はスタジオ入りしない日は全てバイトにあてている。一応の生活費は仕送りで賄えても、趣味の音楽にまでは回せないからだ。  俺も当面のスタジオ代や楽器のメンテナンス代は今年もらったお年玉を崩していたけど、それも長くは続かない。人生初のバイトででも稼がない限り、バンドを続けてはいけないみたいだ。  親父絡みでの大人や遊びでの同級生としかバンドをやって来なかったから、俺は自分に近いスタンスの仲間と本気でバンドをやっていく大変さを知らない。慧に誘ってもらって初めて、その大変さを知った。  慧はスタジオ入りのない日は、放課後にファストフード店、深夜にはコンビニのバイトもやっている。そんな慧を間近に感じ、俺は本気でバンドをやっていく決心がついた。  ドラムセットに備え付けてあるシンバルを外し、自分が持ち込んだものに付け替える。キックペダルとスネアドラムも自分のものに取り替えて、その前に腰をすえた。  中学時代のバンドは勢いだけのバンドで、スネアドラムを叩き破ったり、バスドラムを蹴破ったこともあった。他にもキックペダルを破壊することもしばしばあったっけ。シンバルをかち割ってしまったのは一度だけだけど、とにかくそれがきっかけでマイ器材を準備するようになったのだ。  慧は慧で機材を弄り、アンプの出力をギリギリまで上げて自分の音を作り始めた。

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