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Chapter 2 ... セットアップ  言われてみれば、確かにそうだったのかも知れない。 「でさ。でら笑うべや」 「ぶっ、高橋おまっ。どこの方言だよそれ」 「どっかで聞いたことあるな」 「ほら、あれじゃね。ファンキー・モンキー・ダンディズムの……」  いつものように軽音部のメンバーに囲まれて笑っているのに、ここには俺の居場所がなくなってしまったようなそんな気がする。俺が軽音楽部を抜けて二ヶ月が過ぎた今も俺とつるんでくれている、こいつら4人が俺をハブるはずはないのに。 「……あ。萌衣ちゃんからメールだ」 「え、なに高橋。いつの間に萌衣とそんな仲になってんの」 「てかさ、あれじゃね?」 「柴田が相手してやらねえから相手してくれるやつに(くら)替えとか?」  萌衣の趣味も変わったもんだなと皆に笑われ、高橋が慌てて阿部の手から自分の携帯を奪い取った。  梅雨とは言えないまでも愚図ついた天気が続くなか、最近は気候的にも気持ちの良い晴天が続いている。雨の気配を感じると、湿気をのせいで蒸し暑く感じもするが、その気配さえない爽やかな天候に思わず太陽を仰ぐ。  渡り廊下いっぱいに広がって歩く俺らは相変わらずで、見た目には以前とは変わりなく見えるだろう。それでも、以前には感じなかった疎外感を感じたり、俺の心は曇り空そのまま晴れることはなかった。  慧とはクラスも違うし、学校で行動を共にすることはない。そうなると、自然と高橋たちと一緒にいることになるんだけど、前より少しだけ居心地の悪さを感じたりもして。  メンバーの態度は少しも変わってないことを思うと、俺の気持ちが変わってしまったんだろうか。音楽好きという共通点の他に何もなかった俺たちがつるむようになり、もう二年以上の月日が経ったというのに。  それを考えると慧と過ごした二ヶ月なんて、ほんの一瞬、瞬きをしたくらいなものだろう。だけど、その一瞬一瞬が掛け替えのないもので、その感覚に少し戸惑った。  まあ、よくよく考えてみれば、俺は半ば諦めながらも真相心理ではそれをずっと望んでいた。いつか遊びでやるんじゃなくて、本気でバンドを、音楽をやることを。  それが元ドロップ・アウトのメンバーである慧と朗さんと出会い、その中途半端な気持ちがガラリと変わった。元々の自分が持っていた夢を思い出し、そう考えると胸が熱くなる。

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