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「ただいまー」  家に辿り着いた俺は必ず、一番最初に店に顔を出す。 「おう、おかえり。慧はもう練習してるぞ」  それは子供の頃から続けている言わば習慣で、親父のそんな一言を背後に聞きながら自室に向かい、急いで制服を普段着に着替えた。  普段着といってもこれからバンドの練習に入ることもあり、いつもより少しラフな格好だ。ボーカリストと違ってドラマーの俺は、いかにしてかっこよく目立つかよりも動きやすさが重要で、ドラムを叩く時にしか着ないタンクトップに着替えて部屋を出る。  階段を降りて二階スペースにある洗面所でチャラ男仕様のヅラを外し、両方の耳を飾るピアスを全て外して気合いを入れた。こうやって変身することで気分的にも変われるし、(いや)(おう)でも志気が上がる。  階段を一気に駆け降り、さらに地下へ。保管スペースから取り出した器材を抱えていつも使っているAスタジオの前に立てば、歪んだギターの音が微かに漏れ聞こえてきた。  ドキドキうるさい胸の鼓動。このワクワク感がたまらない。  この時にはもう早くドラムが叩きたくて仕方なくて、帰る道すがら、あんなに慧に会いたがっていたことも忘れていた。  音楽活動は俺にとっては何にも換え難いもので、俺の全てでもあったから。この胸のドキドキも、音楽活動ができる嬉しさから来ているものだとそう思って疑わなかったのだ。 (――さあ)  (はや)る気持ちを抑えて重い扉を押し開ければ、聞こえてくるのは体を揺さぶる爆音。心に響く、爆音と呼ぶには(いささ)か繊細すぎるそのメロディー。 「おそい」  声がした方向を目を懲らしてよく見ると、SSRのKがこちらに笑顔を向けていた。

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