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 長い前髪に目が隠され、Kが今、どんなこの表情(かお)をしているのかは(うかが)い知れない。ただ、怒ってるように見えて上機嫌なその声に、悪戯に胸が騒ぎ始めた。  いつもとは違うその感情は、バンドをやっている高揚感だけじゃないことに、まだ俺は気付かない。Kに笑い返してドラムセットの前に座れば、俺も柴田弓弦からSSRのシバへと変わる。 「ワン、ツー……」  俺の口とドラムスティックから放たれるカウントを合図に、いつものセッションが始まった。  こうやって毎回繰り返すたびに、新しい曲が生まれるわけじゃない。それでも、不思議と俺とKと二人で合わせていると、ご機嫌な曲が生まれることが多かった。  回数を重ねるたび、次にKがどう来るのかが分かってくるのだ。探り探りの状態でのセッションは最初のうちだけで、今は阿吽(あうん)の呼吸とでも言えるぐらいに息がぴたりと合った。  その間、交わされるのは音の応酬だけで会話はない。それでも、Kのギターの音を聞くだけでKの心情が分かるようになり、Kのギターは口から零れる言葉よりも雄弁に語った。  思えば何度もドロップ・アウトのライブに足を運んでいたのは、こんな日がいつか来ることを無意識のうちに感じていたからかも知れない。当時のサポートメンバーのドラマーは道内でも有名なバンドのメンバーで、まだまだひよっこの俺は足元にも及ばないのに、そんなことを思う。 「K」  思わず手を止め、Kの名前を呼んだ。ギターをじゃらんと掻き鳴らすことで返事をしたKは、ゆっくり俺のほうを振り返る。 「あの、さ。今更なんだけど俺でよかったの?」  あ。思わず聞いちゃった。  そしたらKはギターを爪弾(つまび)く手を止めて、その手で前髪を大きな溜め息混じりに掻き上げた。 『弓弦がいいの』  マイク越しに男前な声でそう言われて、思わず胸がキュンとする。 「けど、俺みたいな無名なやつじゃなくても……」  ぽろりと愚痴めいた弱音を吐いたら、それをギターの爆音で止められた。 (……やばっ。怒らせたかな)  床にしゃがみ込んでエフェクターを弄りながら音作りをする、このスタイルはKの機嫌が悪い時のサインだ。さっきまで音に溢れていた室内はシンと静まり返り、お互いの息遣いまで聞こえてきそうだ。  また俺の悪いとこが出てしまった。K言わく、自分に自信が無さすぎるところ。  そうは言われても、自分よりサポートメンバーだったマキさんのほうが実力があると分かっているから、どうしても彼には負い目を感じてしまう。

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