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 結局、こういうことになる。  遠夜は裸で男の腹の上にまたがって、ローションと汗と、それ以外の体液でしとどに濡れながら、ゆっくり腰を揺すっている。クリストファーの両手はがっちり遠夜の尻をつかみ、逃れるのを許さない。尻穴を貫かれ、下から突き上げられるたびに、頭の芯がおかしくなりそうな衝撃が走る。ついに声が漏れてしまうと男の動きが一瞬だけ止まる。 「クリス……クリス……あっ、ああああっ」 「恋しかったよ、遠夜」  嘘をつけ。遠夜の心の一部はクリストファーの言葉を即座に否定する。どうせ、世界中にいる同じような男女に同じ言葉を囁いているのだ。この男は遠夜がスコレ―に入る前から|教官《メンター》も同然だった。あらゆることを教わった――言葉遣い、情報戦の基本から、初対面の相手をベッドでどう喜ばせるかまで。  つまり最初の男というわけだ。  クリストファーの指が胸の尖りをはじき、遠夜は喉をそらせて呻く。いつのまにか体勢がかわり、今度は湿ったシーツに背中をつけて足を大きく開き、尻穴をさらしている。さっき絶頂に達したのにまだ足りないと思っているのは、遠夜自身だ。 「いい子だ……私が戻る前、何人に抱かれた?」 「あっ……俺はそんな……そんな真似……」 「恋人のひとりもいないのか? 今度の相棒はどうだ?」  そのとたん大神の顔が脳裏を横切る。ハニートラップ、いやドラッグトラップというべきか、面倒な罠に落ちたときの顔だ。欲情した大神の雄を口を使って鎮めているときの、快楽と困惑と屈辱のいりまじった表情。  どうせならちがう時に、ちがうかたちで見たかった。あの時のことについては大神も遠夜も口をつぐんでいる。つまるところただの事故なのだから。 「冗談――俺のことなんか全部……お見通しのくせに」 「それはどうかな。こんな体で誘惑されるといつも、いつも驚いてしまうよ、遠夜」  奥まで突かれた衝撃で、あんたのせいだという言葉は悲鳴のような喘ぎにとってかわる。一年に一度か二度、こうして抱かれるたび、自分が楽器になったような気分に陥る。この男に調律され、この男に訓練され、鳴かせられる。そのうち飽きられるのだろう。  抱かれたいと望んでいるわけではなかった。飽きられるのを待ちたいわけでもない。たぶんいつか、遠夜の方から縁を切る、それが望みだ。何もなかったようにふるまい、去っていく。  この男があれを――遠夜がずっと知りたがっていることを、教えてくれさえすれば。 「きみは私がみつけた宝石だ」荒い息と共にクリストファーはささやく。 「磨きがいのある原石だ……誰かに預けるのも本当はしのびない……いい子だ……そう……」  快楽に揺さぶられるあいだも甘い言葉だけが耳に残り、遠夜の心をかき乱す。知りたいと願っているただひとつの情報は決して教えてくれないくせに。何度たずねても「きみには機密取り扱い資格がない」で終わるだけだ。どうして俺には資格がない? この情報のために自分はのっぴきならない事態に陥り、今スコレーで働いているというのに。  それでもこんな風に甘く囁かれると、いつかは真相を話してくれるのではないかと淡い期待を抱いてしまう。だからいつも応じてしまうのか。  この男に求められると逆らえない。 「クリス……クリスっ、もっと――」  もう一度絶頂に達した瞬間、なんの脈絡もなく、ずっと前に失った友の顔が浮かぶ。クリストファーの庇護下に自分が置かれるきっかけとなった、未だ行方不明の友の顔。いつしか体の中から圧迫が消え、遠夜はけだるい体をシーツに任せる。閉じた瞼の上をあたたかいものが触れる。クリストファーの手だ。抱いたあともこんな風に優しいなんて、どうかしている。心地よさと反抗的な気分がまざりあい、かたくなに目をつぶる。

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