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【10】

 半年後――。  Iコーポレーションの人事異動が発表された。代表取締役と自己啓発チームのリーダーを兼任していた一条は、大人しく社長職に専念することとなり、その後を引き継ぎリーダーに就任したのは石本だった。  沙月も主任への昇格が決まった。中途入社して一年も経たない沙月の昇格には皆が驚いたが、その反面で納得のいく人事だという声の方が多かった。未熟だった自分が一条だけでなく、Iコーポレーションの一員として皆に認められた瞬間だった。  何に於いても後ろ向きだった自分。親身になって的確なアドバイスをくれた石本や同僚には感謝しきれない。何より、いつの時もあたたかい目で見守ってくれていた一条の想いが、沙月の心を支えていた。言葉には出さなくとも、一心に注がれる彼からの愛情が沙月に自信を与え、前向きにさせてくれる。  一条がいないフロアは、何か物足りない感じではあったが、石本の統率力でチームは順調に動き始めていた。沙月もまた、一流企業から中小企業まで幅広いコンサルティング業務をこなし、日々を多忙に過ごしていた。  プライベートでも、沙月は自分なりの花嫁修業を始めていた。一条家の歴史や魔族社会でのルール、礼儀作法をはじめ政治経済からワインの銘柄まで、必要だと思われる物は全部頭に詰め込んだ。短期間で詰め込み過ぎパニックを起こすと思いきや、それまで自身でも気づくことのなかった物覚えの早さに驚いた。  吸血鬼になれば記憶力は人間の数十倍になるし、言語も一度耳にすれば大概はクリア出来ると聞いていた。しかし沙月は、その力に頼るばかりではなく、自分が出来ることをしたかったのだ。何も出来ない、能力がない、自信がない。そんな自分を変えるために……。  そして今週末――。ついに婚姻式を迎えることとなった。本来、名門一条家に花嫁を迎えるとなれば大々的にゲストを招待して行うのが常だったが、沙月のたっての希望で身内だけの儀式になった。  婚姻が成立すれば、沙月は養子として一条家に移籍する。兄である泉は桜坂家に嫁ぎ、今では双子の母になっている。淫魔の成長は著しく早い。泉は自分なりに与えられた能力を受け入れ、幸徳の妻として生涯添い遂げることを決めたようだ。あれから、彼に恨みごとを言われることもなくなり、沙月は心穏やかに過ごしている。  婚姻式のために取得した休暇期間中の業務伝達事項を纏め、早々に帰宅の途についた沙月は、一条のマンションの前で足を止めた。そこには、沙月の帰りを待っていたかのように、エントランスの入口に立つ一条の姿があった。濃紺のスリーピーススーツの上にカシミヤのコートを羽織り、黒革の手袋を嵌めている。男らしさと色気を併せもつ彼の漆黒の髪を、すぐ近くまで訪れている春を感じさせる風がふわりと揺らした。その凛々しい立ち姿に、自然と笑みが浮かぶ。 「今日は随分と早いんだね?」 「週末の準備が終わったところだ。おかえり……沙月」  ビル風に乱された沙月の髪を指先で払いのけた一条は、人目を憚ることなく頬にそっとキスを落とした。エントランスを抜け、肩を並べてエレベーターに乗り込むと、どちらからともなくそっと手を握った。一条の冷えた手袋が、どれほどの時間その場にいたのかを証明している。沙月は申し訳ないと思う反面、繋いだ手から流れ込む幸福感に思わず微笑んだ。 「――長く待たせちゃったね」  ぼそりと呟いた沙月を、一条は長身を屈めて覗きこむと薄い唇を笑みの形にした。 「まったくだ……」  たかが十年。されど十年――。いろいろな想いが溢れ出し、ごくごく自然に唇が重なった。冷たい一条の舌が沙月の温かい口内を蹂躙すると、それに応えるように沙月の舌が拙いながらも誘い動く。 「ん……っふ」  絡み合う互いの舌の心地よさに、我慢していても漏れてしまう吐息が悔しい。  最上階に到着したことを告げる小気味よいベルの音が響く。しかし、一度重ねられたその唇は離れることはなかった。 *****  二人の婚姻式は、一条家ゆかりの神社で行われた。一条家が所有する土地は各地に点在している。その中でも、鬱蒼とした木々に囲まれた森の中に社を構える神社は、強力な結界が張り巡らされており、安易に人間が足を踏み入れることは出来ない。  豪奢な拝殿は古くはあるが、立派な神明造(しんめいづくり)で、本を開いて伏せたように両側に流れている切妻造(きりづまづくり)という特徴のある屋根形状が印象的だ。すべて国産ヒノキを使用した素木造(しらきづくり)で、伝統的な高床式構造の建物だ。  本殿から少し奥まった場所には離れがあり、贄として捧げられた人間を魔族が受け入れ、契りをを交わす『寝所』となっている。その場所は一般的に使用されることはなく、夫婦の契りを終えたあと建物に火を放つ。人間が二度と後戻り出来ないように、契りをより堅固なものにするためだと言われている。一条と沙月の婚姻のためだけに新たに建てられた『寝所』は、まだヒノキの香りも新しく、当日まで誰も足を踏み入れないよう扉を施錠し、厳重に警備されていた。  神事は拝殿の奥に設けられた本殿で行われるが、基本的に崇拝する神がない一族なので、あくまでも『仕来たり』に則った形で行われる。  留袖姿の華代と運転手の菅野、そして御守である保科が参列するだけの静かな結婚式だった。一条は黒地に金糸の刺繍を施したフロックコート、沙月は白地に銀糸が施されている揃いの衣装だ。朱塗りの盃に注がれた互いの血を一気に飲み干すと、一条は細い金色のリングを沙月の薬指に嵌めた。半年前に嵌めた婚約指輪と重ねることで、一条家の家紋がハッキリとした形になるデザインになっている。一条はもとより幅のある金色のリングを嵌めた。これにも一条家の家紋が繊細に彫り込まれている。 「この指輪は互いの心臓を繋ぐもの。これが外れた時は、互いの死を意味する」  無紋の白狩衣に身を包んだ宮司の重みのある言葉に頷くと、互いの唇を触れ合わせる。婚姻式自体は三十分ほどのものだが、これからが大変なのだと華代が熱っぽく語った。 「沙月くん、いいこと? 婚姻の契約はこれからが本番。真琴の精を受け、人間としての生を終わらせて吸血鬼として生まれ変わるにはかなりの苦痛が伴うわ。それが治まって、沙月くんの体が真琴の血に適応すれば、あとは本能が教えてくれる。力の使い方も、もちろん糧を得る方法もね。そうしたら二人で寝所を出て、歴代の当主が眠る霊廟で婚姻の報告を済ませれば、あなたは一条家の花嫁として正式に迎えられる。それまでは、私はもちろん、誰とも顔を合わせてはならない決まりよ。寝所は本殿の最奥にある、普段は限られた者以外足を踏み入れてはいけない聖域にある。何があっても頼れるのは真琴だけだから……」  華代は涙ぐみながらそう言うと、緊張した面持ちの沙月をぎゅっと抱きしめた。 「――大丈夫。あなたなら絶対に大丈夫」 「はい……」  一度本殿から離れ、厳重に警備された離れへと移動する。板張りの廊下の途中に用意された座敷で、それまで着ていたフロックコートを脱ぎ、沙月は『贄花嫁』になるべく襦袢の上に白無垢を羽織る。古くから贄となった者が自身を捧げるために着ていたとされ、魔族との婚姻では必ず身につけるという。通常の花嫁衣裳では角隠しを着用するところであるが、性別を曖昧に見せるために絹の大きな布を頭から被る。ウェディングドレスでいうベールのような雰囲気だ。  一条もまた別の部屋で白い着物に着替えている。魔族でありながら神聖な白を身につけるのは、花嫁に恐怖心を与えないためだとか……。着替えを終えると、狩衣に身を包んだ禰宜(ねぎ)が恭しく観音開きの扉を開き、沙月は『寝所』に足を踏み入れた。キィン……と耳鳴りがして、その場の空気が冷たく重いものへと変わった。 「沙月様は、閨で真琴様をお待ちください」  返事をする代わりに沙月が振り返ると、同時にギィッと軋んだ音を立てて扉が閉じられた。窓が一つもない部屋の中央に一段高くなった場所がある。そこには、低めに作られたキングサイズのベッドが置かれ、皺ひとつない白いシーツが敷かれていた。布団は透かしの入った絹で出来ており、一目で高価なものだと分かる。  周囲は拝殿同様に太い柱に囲まれ、上部には天蓋レースの布がベッドを取り囲むように幾重にも吊られていた。右手の方にはバスルームとトイレがあり、伝統的な作りだと思いきや近代的な部分も垣間見える。  沙月は緊張した面持ちで、上から吊られたレースを手で持ち上げてベッドに膝をつくと、着なれない着物の裾を落ち着きなく合わせた。左手の薬指に嵌めた二連のリングに唇を寄せ、なんとか落ち着こうと深呼吸を繰り返す。婚姻式の際に口にした彼の血が、まだ口内に残っている。その味を確かめるように舌先でそっと自身の歯列をなぞった。  耳が痛くなるほどの静寂に包まれた空間。自身の息遣いがやけにハッキリと聞こえ、無意識に息をひそめた。  真祖の血を汲む純血の吸血鬼である一条の血を口にするということは、人間にとってリスクを伴う行為だ。摂取量を間違えれば命を落とす劇薬になる。だが、沙月の体は難なくそれを受け入れていた。毒も少量を長い期間摂取していれば、それなりに抗体も出来てくる。それと同様に血液と何ら変わらない一条の精液を口にしていたおかげで、今は拒絶反応もなく落ち着いていられる。  しかし、いざ自分が彼と同じものになると思うと、不安や恐怖がないわけではない。もう逃げられない……。そう分かっていても、自分のような人間が格式高い一族として生きていけるのだろうか。  自分は一条に愛されている――。着物の胸元をぐっと掴み、沙月は何度も自身に言い聞かせた。そうでもしていなければ、重圧に押し潰されそうになる。 「真琴……」  吐息まじりに最愛の男の名を呟く。その声に反応するように観音開きの白木の扉が開かれ、純白の着物に身を包んだ一条が姿を現した。漆黒の髪は透き通るような銀色に変わり、身を凍らせるような冷気を纏いながら白足袋で床板を踏みしめると、彼の動きに合わせて音もなく扉が閉まっていく。  ゆっくりと、そして確実に外部との関わりを隔てていく扉に、沙月は顔を上げて背筋を正した。扉が完全に閉まると同時に、バチバチと電気が放電するような音が静かな空間に響いた。 「結界だ……。これで外界との繋がりは完全に遮断された」  穏やかな口調でそう言った一条は表情を変えない。しかし、彼が纏う空気は人間である沙月には息苦しく、次第に強くなっていく頭痛に眉を顰めた。 (これが吸血鬼一族の力……)  一条は、天井から幾重にも下ろされたレースを片手で持ち上げてベッドに腰掛けると、緊張した面持ちで動けずにいる沙月に手を伸ばした。 「緊張しているのか? 少し顔色が悪いな……。魔族の力を目の当たりにしたせいか……」 「大丈夫……。少し、息が苦しいだけ」  不安げに見つめる一条に、沙月はわずかに目を伏せたまま言った。 「――本当の生贄みたいだ」  クスッと笑った一条の金色の瞳がすっと細められる。その瞬間、ふわりと温かなものに包まれたような気がして、沙月は肩の力を抜いた。 「沙月、おいで……」  鼓膜を震わす低い声で呼ばれ、膝を擦りながら彼に近づくと、長い指が沙月の顎を捉えた。グッと上向かせ、覆いかぶさるように一条の冷たい唇が深く重なる。  それまでの緊張ですっかり冷え切っていた手足が、突然火を入れられたかのように熱く火照り始めた。その熱はうねりながら沙月の体内を巡り、甘い疼きを生んでいく。 「ん……っ。はぁ……、熱いっ。んん……っ」  今まで何度も交わしてきたはずのキス。唇だけしか触れていないのに、まるで一条に抱きしめられているかのような錯覚を起こす。彼の唇が優しく啄み、それに焦れ始めると、分かっているといわんばかりに舌が口内を愛撫し、歯列をなぞっては誘うように舌先を絡める。腰の奥から這い上がる疼きに耐え切れなくなって、沙月は思わず一条の首に両腕を絡ませた。そのまま白いシーツの上に押し倒されると、ベッドが二人分の体重を受け止めて小さくギシリと鳴った。 「さっき飲んだ俺の血が、体を巡っているだろう? ゆっくりと――そして、確実にお前の体は変わっていく」 「真琴……」  一条の手が沙月の着物の帯にかかる。ひと思いに解いてくれることを望む沙月に反して、一条は思わせぶりに臀部を撫でながら焦らし続ける。白無垢の絹の手触りと、沙月の体のラインを確かめるかのように動く一条の手。彼の唇にわずかに歯を立てて抗議すると、なぜか嬉しそうに微笑んでいる。そして、間もなくしてシュルリと音を立てて帯が解かれた。だが、それを引き抜くことはせず、一条は胸元の合わせを大きく広げたまま、露わになった沙月の白い胸元に掌を押し当てた。何かを確かめるように冷たい手が首筋から鎖骨へと動く。わずかに色づき硬くなり始めた胸の突起に気づくと、長く伸びた爪の先でピンッと弾いた。 「あ……っ」  その衝撃に沙月はしどけなく身を庇うように脚を曲げ、腰を捻った。 「いやらしい乳首だな。まだキスしかしていないというのに……」 「誰のせい……? 真琴が触るから……だろっ」  一条は、羽枕に散った沙月の栗色の髪を梳きながら胸元に顔を寄せると、ピンク色の突起に尖らせた舌先を押し当てた。唾液を塗されながらねっとりと舐め上げる彼と目が合う。羞恥に震えた沙月の強がりは、その一瞬であっさりと消し飛んだ。 「あぁ……っ。いや……ぁ……っ」  顎を反らせ、自然と漏れた声は耳を塞ぎたくなるほど艶めかしく甘い。いつしか一条の首から離れた両手は力なくシーツに投げ出されていた。それでもと、わずかに残った理性がそのシーツを手繰り寄せる。  体がおかしい……。普段から一条に慣らされていた体だが、たかがキスだけでこれほど敏感になることはない。まるで神経が剥き出しになっているかのように、彼が触れるだけでピリピリとした微弱電流が全身を這う。痛みは感じない。ただ……むず痒さと、こもっていくばかりで発散出来ない熱が身を内側から焦がしていく。  裾が乱れ、帯が緩んだ着物の合わせがだらしなく開いていく。さらりとした生地が、すでに形を変えているモノに擦れ、沙月が堪らなくなって両脚をモゾモゾと擦り合わせると、一条もまた下半身をより密着させた。 「いや……ぁ、真琴っ」  体を捩り、重なった一条の体の下から抜け出そうとする沙月の腰を彼の力強い腕が抱き寄せる。そして彼は、意地悪げに口角をあげて笑った。 「そう暴れるな。力を使ってお前の動きを封じたくはない。でも――贄花嫁らしく縛られてみるか?」  トクン……。一条の言葉に心臓が大きく跳ねた。自身にそういった被虐性癖があるわけではない。だが、今の沙月は自分よりもはるかに強く、力を持った吸血鬼に支配されたいという気持ちが高まっていた。崇高な魔物にすべてを支配され、そして愛される……。その愛情は、他の誰でもない沙月だけに注がれ、その愛に応えるべく自らを捧げる。  彼を前にして跪かない者はいない。だが、たった一人だけ彼を支配できる者がいる。それは、伴侶となる沙月だ。  沙月は広げていた両手を胸の前で揃えると、そっと彼の前に差し出した。一条に向けたその瞳には一点の曇りもなく、ただ純粋に彼だけを求めていた。 「俺は贄……。魔族に捧げられたこの体、あなたの好きにして……ください」 「沙月……」  一条は自身の着物の帯を勢いよく引き抜くと、揃えられた沙月の白い手首を一纏めにし柔らかく結んだ。最愛の沙月に対し、絶対に傷をつけることはしない。少し動けばすぐに解ける程度に縛り上げた手を彼の頭上で押さえ込んだ。  開けた着物から見える一条のしなやかな筋肉を纏った体躯に、沙月はうっとりと見惚れた。そして、視線を徐々に下にずらしていくと、銀色の下生えを押し退けるようにそそり立つ、凶暴な楔があった。それを目の当たりにし、腰の奥の方でズクンと何かが動くのを感じた。  一条も余程我慢しているのだろう。先端から次々と透明な蜜を溢れさせ、大きく張り出したカリを伝い、ゆっくりと糸を引きながら沙月の腿へと落ちていく様子は、一秒でも目を逸らすことが出来なかった。 「――贄花嫁の嗜みとやらを教えてくれるか?」 「うふふ……。それは、あなたが俺に教えてくれたじゃないですか。仕事と一緒に」  純真で無垢だったあの頃。なにも知らなかった沙月とは思えないほど、艶を増し、色香を振りまいていると一条は心配する。沙月自身にそんな自覚はないのだが、いつも顔を合わせている一条でさえその度に「魅了される」という。あの頃に比べれば間違いなく変わった。でも、それは内面的なことであり、それが容姿までも変えるとは思っていなかった。 「美しいな……沙月」  眩しそうに目を細めて囁いた一条。沙月は、不自由な手で羽枕を掴みながら、細い腰をくねらせて誘うように言った。 「真琴……。あなたの滴をちょうだい」  長い睫毛を瞬かせながら栗色の目を細め、赤い舌を覗かせた沙月の表情に、一条が目を瞠ったのが分かった。吸血鬼の血を体が素直に受け入れたのか、沙月から漂う甘い香りは時間を追うごとに強くなっていく。寝所に二人の香りが混ざり合い満ちていく。媚薬のようなその香りと、沙月の艶めかしく揺れる白い身体が一条の理性を突き崩すのに、そう時間はかからなかった。 「おねだりは合格だ……」  そう言った一条は沙月の体を跨ぐようにして膝をついたまま体を移動させた。そして、沙月の顔の上でわずかに腰をあげると昂ぶったその部分を愛らしい唇に押し当てた。その熱さと迫力に目を見開いたままの沙月を見下ろした一条は、短い牙を見せて微笑んだ。一条の楔は太くて長く硬い。それを全て咥えることは不可能に近いが、沙月は小ぶりな唇を目一杯開き、大きく張り出したカリの部分までを口内に収めた。 「うぅ……っぐ……かはっ」  大量の蜜を滴らせた先端を、まるで飴玉でも舐めるかのように頬張り、舌で丁寧に舐め上げていく。最初は拙い口淫だった。それが、今では経験者である一条が眉間に皺を寄せ、熱い吐息を漏らすまでに成長していた。 「お前……どこで……っく! あぁ……イイ……っ」  ジュルジュルと音を立てて吸引する沙月の頭上に置かれたままの手のすぐ脇に、一条は自身の体を支えるように両手をつき、ゆるゆると腰を振った。 「んがぁ……ぐぼっ……ううぅ」  先端だけが収まっていた沙月の口内にさらに楔が打ち込まれ、喉の奥を突き上げられると、今までにない痛みと嘔吐きに襲われた。しかし、それも一瞬のことで、苦しいと思えば思うほど気持ちよくて、喉の奥で彼の形を意識するたびに、下肢に熱が集まっていく。未だ繋がったことは一度もないが、体の奥を突かれているような感覚に囚われ、沙月は着物の裾を割ると、はしたなく腰を突き出して震えた。 「お前の口は愛らしいだけじゃないな。最高に気持ちがいい……」  獣が低く呻くように呟いた一条の動きが忙しないものへと変わっていく。沙月もまた、熱を蓄えていく下肢をモゾモゾと動かし、臀部にキュッと力を込めた。 「こちらからも孕ませてやるからな……」 「う……うぅ! ぐ……あぁ……っ」   口内で質量を増し膨張し始める一条の楔に喉を塞がれ、沙月は苦痛と快感の狭間で溺れそうになった。グボグボと唾液を掻き混ぜながら出入りする凶暴な楔が火傷しそうなほど熱を増していく。 「イクぞ……っ。ん……あぁぁ……っぐぁ!」 「がはっ……あぁ――っ!」  一条が放った灼熱の奔流が沙月の喉を叩くとともに、彼の昂ぶりもまた一緒に弾けた。足の指をキュッと丸めてシーツを掴む。乱れた着物の間から突き立ったペニスから白濁が飛び散り、パタパタと質量のある音を立ててシーツを汚した。沙月は、栗色の瞳を大きく見開いたまま、自身に何が起きたのか理解出来ないでいた。次々と放たれる白濁を喉の奥に送りこむと、独特の青い匂いが鼻から抜けていく。視線の端で脈打つように動く一条の楔の根元を凝視したまま動くことも忘れていた。  すべてを出し終えた一条が唾液と白濁に塗れた太い楔を引き抜くと、沙月は我に返ったかのように激しくむせ返った。それでも、口内に残っていた粘度のある体液を吐き出すことはしなかった。最愛の男のモノは一滴でも惜しい……と言わんばかりに、喉仏を上下させてすべてを呑み込んだのだ。しっとりと濡れた唇には唾液と精液が糸を引き、苦いはずの精液が舌の上で甘く芳しいものへと変わっていく。沙月は、射精の余韻に膝を立てたまま内腿を震わせ、一条の茎に滴る白濁を舐めようと舌を伸ばしていた。そんな沙月を制するように腰を引いた一条は、困惑しつつも嬉しさを隠せない表情で小さく吐息した。 「まだ、触れてもいないのにイクなんて……。芝山の血は淫乱花嫁を生むようだな」 「違う……っ。これは、真琴がっ」 「俺が何をした? フェラで喉奥を突かれて気持ちよくなってしまったと素直に言ったらどうだ? 今度はどこを突いて欲しいか言ってごらん」  大量の精液を吐き出してもなお、その力を誇示するかのようにビクンと大きく跳ねる一条の楔を見つめ、沙月ははしたなくもゴクリと唾を呑み込んだ。 (もっと、もっと欲しい……)  なぜだろう。一条が欲しくて堪らない。やはり、泉と同じ淫乱な血を継いでしまったのかと、自身の体を恨めしく思う。しかし、体はそんな沙月の不安をよそにさらに熱を発し、達したはずの自身も再び力を持ち始めていた。 「――その前に、汚してしまったところを綺麗に清めなければならないな」  羞恥に震えながらも、もどかしさに腰を揺らす沙月にちらりと目を向けた一条は、体の向きを変えると、再び彼の体を跨ぐ様に膝をついて覆い被さった。そして今度は、沙月の小ぶりなペニスを愛おしげに手で掴むと、躊躇なく口に含んだ。 「やぁ……あぁ、いやぁっ」  沙月の視線の先には弾力のある凶悪な楔と、たっぷりとした陰嚢が揺れている。その光景にも驚いたが、視界が遮られた先で一条が何をしているのか不安で仕方がなかった。まるで、目を開けながらにして目隠しをされている気分だ。視覚が遮られることによって、他の感覚がそれを補うべく鋭くなっていく。達したばかりのペニスは敏感で、わずかな刺激にも弱い。それを知っていて、一条は白濁に濡れた茎から先端に掛けてゆっくりと舌を這わせていく。時折、着物の合わせ目を割り、脇腹や腿にも唇を押し当てて、飛び散った白濁を舐めとっている。ムズムズとしたこそばゆい感覚と、敏感になっている部分を刺激される悦びで体がビクンと跳ねる。その反応を楽しむかのように、一条もまた自身の腰を揺らして沙月に催促をしてきた。  両手が使えないせいで、彼のソレを引き寄せることが出来ない。もどかしさに顎を上向けると、羽枕のお陰で、辛うじて陰嚢に舌先が届いた。この中に彼の分身がいると思うだけで、愛おしくて仕方がない。歯を立てないように口に含むと、一条の体がビクンと跳ねた。 「沙月……っ。どこまでいやらしい花嫁なんだっ」 「分かんないよ……。体が変なんだから……っ。真琴が好きで、好きで堪らないんだよ。あぁぁ……それ、ダメぇ……また、イッ……イッちゃう、からぁ!」 「何度でもイケばいい! ここでは誰にも邪魔されない」 「いやぁ……っ! あ、あっ……吸ったら……ダメぇ! ひっ――ぃぃ」  一条の激しい吸引と上下に擦りあげる手の動きで、沙月は呆気なく達してしまった。その精液を美味しそうに飲み干した一条は、沙月の双丘の奥で慎ましく鎮座していた蕾に指を伸ばした。ピンク色のそこは快楽のためか、ほんのりと赤く色づきヒクヒクと収縮を繰り返している。繋がることが出来なかった今まで、一条はその場所をゆっくりと丹念に、そして絶対に傷つけないように解してきた。  処女の未通の蕾に、無理やり凶悪な楔を捻じ込んで破瓜の血を白いシーツに散らし、痛みに顔を歪めながら喘ぐ花嫁を見たい――一条は、そういったことは絶対にしないと沙月に誓った。これが花嫁でも何でもない相手であれば、元来残虐性を持つ一族ゆえに、狩りのための手段とすることはある。魔族によって嗜好は様々だが、高貴で、何よりも花嫁を大切にする吸血鬼一族では考えられないことだという。幼い頃から苦しみしか知らなかった沙月。花嫁になる彼に、二度とそんなつらい思いはさせたくないという一条の優しさが心から嬉しかった。体を傷つけることなく、ただ快楽だけを味わい、共に果てのない時を生きていきたい――。沙月の心の曇りは、純粋な想いさえも濁らせていく。自信を失い、生きる気力さえも奪う負の要因は絶対に近づけてはならないという一条の強い信念。その、一途な想いに守られてきた十年間……。  彼の長い指が円を描くように蕾を愛撫する。わずかな不安と期待に身を震わせながらも、漏れてしまう声を我慢することはできなかった。一条は臀部の感触を楽しむように撫でながら、ゆっくりと人差し指を蕾に沈めていく。 「――んぁぁっ」  この日までに十分に慣らされたその場所は、すんなりと一条の指を咥え込んだ。綻び始めた蕾は、いつ開花してもおかしくないほどに熟れ、沙月が心から望んでいるモノを待ちわびている。 「いつになく柔らかいな……」  クチッと小さな音を立てて、そっと指を引き抜いた一条はのそりと上体を起こした。そして、音を立てることなく立ち上がると、羽織っていただけの着物を脱ぎ捨て、再び沙月の足元に膝を立てて座った。恥じらいにピッタリと寄せられた沙月の膝頭に手を掛けながら、何度もキスを落とした。 「沙月……」  繰り返し名を呼びながら、一条の冷たい手が足のラインをなぞるように何度も行き来する。その手の動きにさえも反応してしまう体が疎ましい。その愛撫に力を取り戻した沙月のペニスが、先端から白濁交じりの蜜を溢れさせ、糸を引きながら下生えを濡らしていく。 「真琴……」 「贄花嫁は『生贄』ではない。生まれた地を末永く見守る役目を担う。沙月……お前にそれが出来るか?」  沙月は一条の真摯な問いかけに、濡れた唇をきゅっと引き結んだまま頷いた。艶を纏いながらも、揺るがぬ力を秘めた栗色の瞳が一条を見据えた。 「――あなたと一緒なら。俺は……何でも出来る。もう、振り向くことはしない。前だけを見て……あなただけを見て……生きていき、ます」  一条は乱れた沙月の着物の帯を引き抜き、うっすらと色づいた白い肢体を露わにするように前をはだけた。シーツの上に広がった白無垢が、身じろぐたびに大きく波打つ。両手を縛られ、隠すことも出来ない体を羞恥に震わせながら、沙月は折り曲げていた膝をそっと伸ばした。そのつま先を恭しく持ち上げて、一条が唇を寄せて優雅に微笑んだ。 「共に……。永遠に……」  ひんやりとした感触に指を丸めた沙月の滑らかな脚を、一条の手が撫で上げる。そして、その手が腿に辿り着いた時、彼は筋肉に覆われた体を折って脚の付け根に唇を押し当てた。 「あぁ……っ」  堪えきれず漏れてしまった吐息に、一条は金色の瞳を眇めた。沙月の脚に爪を食い込ませたまま、欲情し長く伸びた鋭い牙を白い肌に穿った。 「ひっ――あぁぁっ」  背中を反らせて声を上げた沙月の腰を片手で押さえ込んだ一条が、ぐっとより深く牙を差し込んでいく。破れた皮膚からぶわっと溢れ出した甘い香りに、沙月の視界がくらりと揺れた。  体中を巡った血液が浄化され、一番最初に通過する場所。その血は香り高く、下手をすれば吸血鬼でも酩酊状態に陥る。それ故に、普段その場所からの吸血はあえて避けていた一条だったが、強力な結界が張られ、誰一人として足を踏み入れることが許されない新婚夫婦の寝所であれば、周囲や時間に構うことなく沙月の血を存分に味わえる。  花嫁の秘めたる最高の血を味わえば、さらに愛情が増す。それと共に、魔族特有の独占欲がより強くなり、一度でもその香りと味を知ってしまえば絶対に手放せなくなる。  沙月の血も然り――だった。首筋からの吸血とは比べ物にならないほど甘く香り立ち、アルコールでも酔うことのない一条の頬が上気する。腿のつけ根に寄せた顔のすぐ横では、敏感になった体が素早く反応し、鎌首をもたげたペニスが蜜を溢れさせていた。その蜜の香りもまた、血と相まって一条を煽った。 「はぁ……きも、ち……いい……っ。真琴の……牙が――あぁっ」  次々に溢れる鮮血を唇の端から零しながら喉を鳴らしていた一条だったが、沙月が漏らした艶めかしい声に自身も大きく反応したのか、名残り惜しい表情を浮かべながらゆっくりと牙を引き抜いた。流れ落ちた血がまるで赤縄のように白い肌を這う。 「沙月……っ。はぁ、はぁ……」  乱暴に口元を拭いながら、余裕なさげにその間に素早く体を滑り込ませた一条は、沙月の両膝に手をかけると大きく脚を広げた。 「いやぁ……っ」  双丘の間まで流れた沙月の蜜が蕾を濡らしている。そこに一条が自身の怒張した楔の先をぐっと押し当てると、彼は胸を反らせて大きく喘いだ。 「――もう、後戻りは出来ないぞ」  興奮気味に呟きながら二本の指をそっと蕾に食い込ませ、入り口を弄ってやるとクチュクチュと卑猥な水音が響いた。もっと奥を擦って欲しいと強請る沙月の腰が蛇のようにうねり、わずかに開かれたままの唇から赤い舌を覗かせる。  一条の血と精液を体に取り込んだ沙月の体はもう彼しか求めていなかった。しかし、吸血鬼に変わる決定打はまだ与えられてはいない。今まで何人もの花嫁を輩出してきた芝山の血は沙月にも確実に受け継がれていた。魔族となるために選ばれた身体……。 「もっと……奥が……いいっ。真琴……意地悪、しないでっ」 「お前はこの指で満足出来るのか? もっと欲しいものがあるだろう?」 「欲しい……もの?」 「お前が望むものは何でも与えてやる……。それが花嫁を娶る条件だ」  グリっと抉るように指を奥に突き込んだ一条の言葉は、沙月の嬌声にかき消されていった。中の一番感じる場所を激しく擦られ、打ち上げられた魚のようにビクビクと腰を跳ねさせる。 「ひゃぁぁ……っ! はぁ……あぁぁ……そこっ。だめぇ~っ」 「ここをもっと硬いモノで擦ってやろうか? 何度でも気を失わせてやる……」 「やぁ……っ。真琴……っ」  一条の指を蠢動がどんどんと中へと誘う。呑み込まれてしまうのを恐れるように、一条はたっぷりと濡れたその場所から指を引き抜くと自身の楔を数回扱きあげた。 「――繋がったら、お前は逃げられない。いいか?」  沙月は今まで経験したことのない快楽に耐えきれず、涙目になりながら何度も頷いた。 「も……逃げないっ。逃げないから……っ」  薄い粘膜をヒクヒクと収縮させている蕾に、一条は凶悪な楔の先端を押し当ててぐっと腰を進めた。 「んあ――っ」  沙月の悲鳴にも似た声が寝所に響き渡った。粘膜を割り裂き、女性の腕ほどの太さの楔を食い締める。あれだけ解してもなおわずかな痛みを伴ったが、何より一条と繋がった嬉しさに涙が溢れた。処女であるにもかかわらず難なく先端を呑み込んだ沙月は、シーツを掴み寄せて苦しそうに眉根を寄せた。 「息をしろ……。力を抜け……」 「で……ないっ! く……苦しい」  一条の長大な楔をすべて呑み込むのは同じ魔族でも難しい。それを、人間である沙月の華奢な体に沈めようとしている。一条は、なるべく苦痛を与えないように、ゆっくり、そして確実に蕾を押し広げていく。 「あ……あぁ……はっ、はっ……ぁ……はぁ、ぁんっ」  細い肩がシーツに押し付けられ、綺麗な曲線を描く鎖骨が深い溝を作る。自身の体が灼熱の楔に割り裂かれ、内臓を押し上げられるような圧迫感に、沙月は何度も気を失いそうになった。しかし、そんな彼の意識を繋ぎとめていたのは、一条の体から発せられる甘いバラの香りだった。苦しくてもそれを肺に取り込むと不思議と安らぎ、余計な力が抜けていくのを感じた。これは痛みでも試練でもない。愛する彼と一つになる儀式なのだ。 「――っく。さすがに奥はキツイな……。沙月、大丈夫か?」 「真琴が……入って……くるっ。俺の……中に」  恍惚の表情で呟いた沙月の目尻から涙がつつっと流れた。ハッと息を呑んで動きを止めた一条に、沙月は泣きながら笑って見せた。愛らしい顔が、クシャリと皺だらけになる。 「俺は……全部、受け止める。だって……あなたの花嫁だから」 「沙月……」 「だから、お願い……っ。俺にあなたの力を……くださ、い。もっと……強く生きられる……力を」 「お前は強いよ……」  フルフルと首を振った沙月は、悔しそうに唇を噛みしめた。彼の中にある自信は、完全なものではない。それをより堅固なものに変えることが出来たら――自分はもっと強くなれる。手に入れた自信が勇気や能力に変わっていく。そして、今よりももっと一条に愛される男になる。  たった一人で日が暮れるまで神社の石段に座っていた小学生の沙月。鬱蒼とした木々や風の音にも恐れることはなかった。何より、魔族である一条を見ても悲鳴一つ上げなかった。出逢うべくして出逢った運命の花嫁……。 「――本当のお前はきっと、俺より強いかもしれない。人間に恋をして、その者のことばかり考えて、誰かに取られてしまうんじゃないかって不安ばかり抱いて……。魔族にとって一番の恐怖は、愛する者に受け入れられないことだ。でも……お前は、全部を受け入れてくれた。俺のすべてを」 「真琴……。――っはう!」  グッと腰を突き込んだ一条の楔が、沙月の最奥の壁に食い込んだ。その衝撃は今までの比ではなかった。脳天まで痺れるほどの快感に、沙月は声にならない声を上げた。 「入った……。全部、入ったぞ」 「あぁ……ぁ、ぁあ……苦し……けど、きも……ち、いっ」 「熱くて、俺を引きずり込むように動いてる……。お前にとり込まれそうだ」  沙月の中が長大な楔に馴染んだ頃、一条はゆるゆると腰を動かした。腰を引き、抜けてしまうギリギリのところで止めると、蕾の薄い粘膜が目一杯広げられ、濡れた茎に纏わりつく。それを再び深く突き込むと、クチュリと小さな水音が聞こえ、沙月が一条を悦び迎えていることが分かった。  相手が男性であっても、その体内に子宮を作ることが出来る魔族の力。一条の楔が沙月の奥を刺激し、その精液を受け入れることで子を成すことが出来る。処女である沙月がすぐに孕むことはないが、一条の愛情のもとではそう時間はかからないだろう。 「――あぁ、沙月。いい……っ」  一条は沙月の細い腰を掴み寄せ、体重をかけて何度も突き込む。パンパンと肌がぶつかる破裂音が静かな寝所に響き渡った。  断続的に与えられる快感、途切れ途切れの声、絡み合う互いの息遣い。そして、沙月の首筋に突き立てられた鋭い牙から漏れる鮮血と、果実が熟れたかのような甘い香り。  沙月の両手を封じていた一条の帯がいつしか解け、彼の広い背中に回された。逞しい背中に沙月の爪が食い込み、幾筋もの朱がひかれ、その度に消えていった。一条の金色の瞳がより輝きを増していく。組んず解れつ、幾度となく体位を変え、二人の汗がシーツに滴り落ちた。  沙月は、最奥に叩きつけられる一条の迸りに嬌声をあげて身を震わせた。そのたびに中の楔をきつく食い締め、その感触にまた絶頂を迎える。  果てがないかに思えた婚姻初夜の儀式も、沙月の意識が完全に途切れたことで幕引きとなった。ぐったりとシーツに沈み込んだ細い体からまったく力の衰えない楔を引き抜いた一条は、汗で濡れた沙月の髪を指先でそっと除けてやると、まだ塞がっていない首筋の傷に舌を這わせた。  だらりと力なく伸ばされたままの沙月の脚の間からは、一条が退くと同時に夥しい量の白濁が流れ落ちた。慎ましく鎮座していた蕾は真っ赤に熟れ、ヒクヒクと収縮を繰り返しながら未だ貪欲に欲しがっている。  清楚で大人しい沙月の容姿からは想像出来ないほど、その光景はひどく煽情的だった。しかし、沙月はピクリとも動かない。そう、彼の心臓はすでに止まり、呼吸音も途絶えていた。 「――強くなって、生まれ変わるといい。俺を尻に敷くぐらいにな……」  吸血鬼である一条との契りで沙月は人間の生を終えた。目が覚めた時、あの栗色の瞳は彼と同じ紫かかった金色に輝き、白く美しい体はより色香を放っていることだろう。そして、生えたての牙で一条の首筋に生涯消えることのない『証』を残す。  もう贄花嫁とは言わせない。皆に蔑まれてきた芝山家の次男坊は、日本に住まう魔族の中でも高位貴族である吸血鬼として生き続ける。  そう――十年の愛を貫いた、最愛の伴侶である一条真琴と共に。

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