6 / 82

第6話

「ところで。そなたは、突然やってくるのか」  少しだけ、アンドレイが不満げに言った。 「申し訳ございません。王子様にお会いしたくなったのです」 「だからといって、こうも易々とここまで来られるものなのか?」  そうだ。一介の家臣の息子が、王子の部屋を訪ねてくるなどあり得ぬし罰せられても仕方はない。 「はい、そこは問題ございません。王様直々に私を王子様の友にとおっしゃっていただきましたゆえ、お許しをいただいております」  父王の意向が、トムにも伝わっていたのかもしれない。 「……そうか。しかし、この様な時間にそなたは暇をしておるのか?」 「既に勉学は終えております。その帰りにお訪ねしたのです」 「そうか。で、そなたは何処で学んでおるのだ」 「私は、宮廷にあります英学堂で学んでおります」  英学堂は、宮廷に仕える家臣の子息などが学ぶ機関であり、宮中の一角に建てられている。ルイは、先日から通い始めたのだという。 「そうか。良かったな」  穏やかな心持ちで、冷めてきたミルクを啜った 「王子様は、どの様な勉学をされているのですか?」 「私は、師匠がいる」 「師匠でございますか?」 「そうだ。王様が、王子である私に学者を付けてくださった。その学者から教えを受けている」  リカルドのことだ。リカルドは週に五日、午前中と午後の三時まで教えに来てくれている。 「どの様なお師匠なのですか?」 「そうだな。リカルドというのだが、博識であるが厳しいところがあるな」  アンドレイは普段の講義を思い出す。 そして、会話がルイに主導権を握られている様な気が少しだけした。 まぁ、あまり自分から話す質ではないため、助かる面もあるのだが。 「王子様も怒られることがあるのですか?」  ルイは意外そうに目を瞬かせた。 「まぁ、色々とあるのだ」   アンドレイはごまかすように言った。 先日も、片付けについて苦言を呈されたばかりだったことを、思い出したのだ。 「大変なのですね、王子様も」  ルイは穏やかに笑んだ。 その表情に、何故かアンドレイの心はドキリとした。 「まぁな」  ルイとは出会ったばかりだし、彼について知らないことも多いだろう。 けれど、アンドレイはこんな時間も悪くないと思えた。 初めて出来た友と、これから先も楽しい時間を過ごしていくことができるだろうか。

ともだちにシェアしよう!