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第6話
「ところで。そなたは、突然やってくるのか」
少しだけ、アンドレイが不満げに言った。
「申し訳ございません。王子様にお会いしたくなったのです」
「だからといって、こうも易々とここまで来られるものなのか?」
そうだ。一介の家臣の息子が、王子の部屋を訪ねてくるなどあり得ぬし罰せられても仕方はない。
「はい、そこは問題ございません。王様直々に私を王子様の友にとおっしゃっていただきましたゆえ、お許しをいただいております」
父王の意向が、トムにも伝わっていたのかもしれない。
「……そうか。しかし、この様な時間にそなたは暇をしておるのか?」
「既に勉学は終えております。その帰りにお訪ねしたのです」
「そうか。で、そなたは何処で学んでおるのだ」
「私は、宮廷にあります英学堂で学んでおります」
英学堂は、宮廷に仕える家臣の子息などが学ぶ機関であり、宮中の一角に建てられている。ルイは、先日から通い始めたのだという。
「そうか。良かったな」
穏やかな心持ちで、冷めてきたミルクを啜った
「王子様は、どの様な勉学をされているのですか?」
「私は、師匠がいる」
「師匠でございますか?」
「そうだ。王様が、王子である私に学者を付けてくださった。その学者から教えを受けている」
リカルドのことだ。リカルドは週に五日、午前中と午後の三時まで教えに来てくれている。
「どの様なお師匠なのですか?」
「そうだな。リカルドというのだが、博識であるが厳しいところがあるな」
アンドレイは普段の講義を思い出す。
そして、会話がルイに主導権を握られている様な気が少しだけした。
まぁ、あまり自分から話す質ではないため、助かる面もあるのだが。
「王子様も怒られることがあるのですか?」
ルイは意外そうに目を瞬かせた。
「まぁ、色々とあるのだ」
アンドレイはごまかすように言った。
先日も、片付けについて苦言を呈されたばかりだったことを、思い出したのだ。
「大変なのですね、王子様も」
ルイは穏やかに笑んだ。
その表情に、何故かアンドレイの心はドキリとした。
「まぁな」
ルイとは出会ったばかりだし、彼について知らないことも多いだろう。
けれど、アンドレイはこんな時間も悪くないと思えた。
初めて出来た友と、これから先も楽しい時間を過ごしていくことができるだろうか。
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