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第9話
後日、アンドレイは城内の広間での朝食後に、一階の廊下を歩いていた。
すると後ろから、パタパタと駆けてくる音と、自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
「兄上〜!」
二歳下の妹、ユーリが駆け寄り抱きついてきた。
「お前、廊下を走るなといつも言っているだろう」
「ごめんなさい。つい、兄上が見えたものですから」
ユーリは、アンドレイを見上げた。天真爛漫なユーリは兄のことが大好きだ。
「なんだ。何か用か?」
身を離したユーリは、今度はアンドレイの服の袖を掴む。
「何だか最近、兄上と過ごす時間がないので、一緒にお散歩でもしたいなと思ったのです」
「お前は勉学の方は良いのか?これから先生が来るのではないのか?」
アンドレイが聞くと、ユーリはコクリと頷いた。いつも教えに来てくれる教師の都合で、一時間ほど遅れるらしい。
「私もちょうどこれからの時間は空いている。朝の散歩とするか」
多少は面倒だと思いつつも、たまには妹に構ってやるのも悪くないだろう。散歩を了承すると、ユーリは殊更に喜んだ。
「やったぁ!兄上はあまりユーリを構ってくれないので、寂しかったんです」
「そか、悪かったな」
アンドレイがユーリの頭を撫で、歩くよう促した。
「では、行くぞ」
「はいっ!」
ユーリは言及いっぱいに頷き、アンドレイの腕に掴まり歩き出した。
「お前、暑いからそんなにくっつくな」
拒むように言ったが、ユーリのことは大事に思っている。
しかし、気恥ずかしさからつい邪険な対応をしてしまう。
ユーリにも申し訳なく、もう少し優しくしなければと思っていた。
「良いではありませんか。こうして歩くのは久しぶりなのですから」
「仕方ないな」
結局アンドレイは、ユーリには甘いのだ。
「そう言えば、兄上が最近あまり話してくれないと、お母様が寂しがっていましたよ?」
アンドレイ達の母親、つまり王妃は父王よりも若く、美しいと評判だ。
アンドレイは母親に似た美貌を持っている。
優しく大好きな母親だが、この頃はあまり話すこともないかもしれない。
普段は一緒にはいないし、食事の席を共にしても、家族と会話をするが少ないのだ。
「そうだな……たまには母上のところに伺うとするか」
アンドレイが母親に思いを馳せていると、突然声をかけられた。
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