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第10話

「王子様?」  その声に立ち止まり振り向くと、そこにはルイが立っていた。 「ルイ……何故ここに?」 「講義があるため、英学堂へ参ろうとしていたところです」  ルイは説明をすると、アンドレイの傍らで警戒心を露わにするユーリの方に目を向けた。 「そちらの方は?」  ルイは、まだユーリに会ったことがなかった。これが初対面だ。 「私の妹、ユーリだ」  アンドレイはさり気なくユーリを前に出した。ユーリはなおもルイのことを吟味するように見つめている。 「そうでしたか。初めてお目にかかります、ルイと申します。王子様には良くしていただいております」  ルイは恭しく挨拶をした。  アンドレイにしてみれば、ルイに対しさして”良く”できているわけではないと思ったが、思うだけに留めた。 「……あなたはどこの方?」 「私は、王様にお仕えするフィリップの息子でございます」  ユーリに警戒させないように、ルイは笑顔で答えた。 「ふーん……」  まだ信じられないとばかりに、ユーリはアンドレイの影に隠れてしまった。 「こら、ユーリ!」  アンドレイも戸惑ってしまう。ユーリは人見知りする方ではないのだが、何故かルイのことは警戒している。 「ユーリ。ルイは悪い者ではない。私に良くしてくれているし大丈夫だ」  そう言ってアンドレイが宥めると、ユーリは渋々ながらもコクリと頷いた。 そしてルイが跪きユーリへと差し出す。するとユーリも躊躇いがちにルイの手を取った。 「王女様。これからどうぞよろしくお願いいたします」  ルイは頭を下げた。そして立ち上がると彼は「講義がありますので」と言い残してその場を去っていった。 「不思議な人ですね。あの方は兄上のお友達なのですか?」 「……あぁ。友となっている。本当に不思議な奴だ」  アンドレイはルイの背中を姿が消えるまで見送った。 「何だか私、あの方に少し焼きもちを焼いてしまいます」 「何言ってるんだ、ユーリ」  ユーリは、寂し気な様子を見せた。 「だって、私以外に兄上と仲良くしているがいるのが、面白くないんですもの」 「馬鹿なことを言うな」  アンドレイはユーリの頭をポンと叩いた。

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