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第11話
ルイと出会ってから半年、相変わらず二人は交流を続けている。アンドレイもだいぶルイに懐いた。
そんなある日、何時ものようにアンドレイの居室を訪れたルイは、思わぬことを口にした。
「王子様、今日は海に行きませんか?」
アンドレイの住まう宮殿の後ろには、海がある。子どもの足では少し遠いかもしれないが、歩けない距離ではない。
『そういえば、海など行ったことがなかったな』
アンドレイはふと思った。父王には、遊びに連れていってもらった記憶がない。外出するとしても、公務くらいのもので宮殿の外に出ることなど滅多にないのだ。
「海……か……」
「お嫌いですか?」
途端に、ルイは不安げな顔をした。
「いや、そうではない。私はこれまで海に行ったことがないのだ。海があるというのは聞いたことがあるがな」
「そうでしたか。では、私と共に参りましょう。先日、父が連れていってくれたのです。王子様にもお見せしとうございます」
本当は、自分も海とやらを見てみたい。宮殿の割と近くにあるのだから。それに、ルイともこれまで出かけたことはなかったのだ。外の世界をルイと共に見てみたい。
けれど……。
「私とて、できるものならそうしたい。しかし、勝手に外に出ることは許されまい。許しを乞ったとしても、許可してもらえぬ」
「そうですね。では、こうしてはいかがでしょう。誰にも内緒で、二人のみで出掛けるのです」
「さようなことができると思うのか?もし何かあったらどうするのだ」
「大丈夫です。責任は私が取りますから」
責任などと、まだ11歳の子どもに何ができるというのだろうか。しかし、アンドレイはたまにはそんな冒険をしてみたいなと思った。
「分かった。行こう」
アンドレイがそう決意を告げると、ルイの顔はぱぁっと明るくなり華やいだ。
トムに見つからないように、警備の隙きを突き、何とか二人は宮廷を出た。
きっと、外に出たことはバレて、父王の知るところとなるかもしれない。
大目玉を食らうことも考えられるが、ルイと思い出を作りたい気持ちの方が勝った。
歩いて一時間、やっとのことで海へと辿り着いた。
険しい道というわけではなかったものの、普段あまり歩くことのないアンドレイにとっては、なかなかの大冒険だ。
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