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第20話

それから一か月、アンドレイが自室で書物を読んでいると、ルイがやってきた。 「ルイにございます」 「あぁ。入れ」  入室すると、ルイは真っ直ぐにアンドレイの前に立った。 「どうした?」 「王様がお呼びです。直ぐに部屋に来るようにと」 「王様が?」  父王がアンドレイを呼ぶことはそうは多くない。同じ城に住んでいるし食事では会うとはいえ、話をすることは稀なのだ。 だから、アンドレイは呼ばれたことが不思議だった。 「はい。どこかお悩みのご様子でした」 「そうか、分かった。今すぐ行く」  アンドレイは読んでいた書物を閉じ、部屋を出た。 「今、何とおっしゃられましたか、王様」  突然のことに、アンドレイは父王の部屋で 驚きに目を見開いた。 「お前を、正式に世継ぎとして定めると言っているのだ」 「それはまだ、早いのではないですか?」 「何を言う。早くはない。お前も十八だ。そろそろ本格的に、準備をせねばな」  確かに、父王の息子は自分しかいないし、ずっといずれは自分が王となるのだろうとは思い描いてきた。 しかし、この時機に告げられるとは思ってもいなかった。 「しかし……」 「しかしではない。アンドレイよ、良く聞くのだ」  父王は、より表情を硬くした。それを見て、アンドレイは何か嫌な予感がした。 「私はな、心の臓に病が見つかってな。無理できん体になってきてしまったのだ」 「病……ですか?」 「なにも、直ぐに政務を執り行えと言っているのではない。しかし、そろそろ王となる心構えをしておいてくれ」 「父上……」 「そう不安がるな。私が叩き込んでやるから、安心しろ」 「……はい、承知いたしました」  父王の部屋からの帰りは、足取りが重く感じられた。  こんなに早く、世継ぎの話が出るとは思わなかった。 いずれは王位に就くと子どもの頃から思い育った。 どうやら、本格的に準備を始める時が来たか。王となる準備を。

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