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第30話
「王子様、どうされましたか」
リカルドの執務室に赴くと、部屋の主であるリカルドが驚いた面持ちで迎えてくれた。しかし、どこかアンドレイがやってくることを想定していたかのようにも見える。
「お話があって参りました」
「何でしょう?」
「端的にお聞きします。私に、刺客を送りましたか?」
「……何のことでしょう?」
「誤魔化さなくて結構です。調べは付いているんですよ、師匠」
「はて。私には分かりませんな」
リカルドは素知らぬ顔をしてとぼけて見せた。
「しらを切らなくても良いのですよ。あなたがやったことは、明白なのです。全てをおっしゃってください」
アンドレイは真っ直ぐに見据えると、リカルドは観念したように徐々に話し始めた。
「王子様を、刺客を雇い襲わせたのは……私めでございます」
『やっぱりな』という気持ちがアンドレイの胸中を占めた。やっと認めてくれたという、安堵が大きいだろうか。
「……なぜ、その様なことを?」
「私の隠し財産を探し当てられたと知り、王様にも知られてはならないと思い……襲わせてしまいました……大変、申し訳ございません王子様……」
リカルドは後悔のためか涙を流した。
「軍事費に手を付けるだけでも大罪です。それくらい、あなたは分かっていたはずでしょう」
「はい……しかし、私には目的があったのでございます」
「目的?」
「はい。私には孫も生まれました。家族たちのために、資産を残してやりたいと思ったのです」
「それなら、あなたの苦労して働いた稼ぎを蓄えておけば良いのではないですか。不正をして残した資産など、誰も喜びませんよ」
「家族には分かりませんから……」
リカルドは俯きながら苦々しい面持ちで言った。
「そういう問題ではないのではないですか?師匠。あなたがやったことは横領ですよ?」
「誰にも、知られるまいと思ったんですけどね。甘かったか……」
アンドレイはリカルドの言葉にため息を吐いた。
「はぁ……師匠……横領だけでも大罪なのに……私を襲わせるなど……」
「王子様に、傷をつけたことは申し訳なく思っております。どの様な罰でも、甘んじてお受けいたします」
「誠に遺憾です、師匠」
その後、父王の裁きを受けリカルドは流罪となった。
父王は死罪にするつもりであり、死罪になってもおかしくない状況だったが、アンドレイが世話になった師匠への最後への温情として流罪にしてもらえるように頼んだのだ。
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