31 / 82

第31話

リカルドが流罪になったひと月後、アンドレイはルイと共に王室の親衛隊の訓練に顔を出した。 親衛隊は父王を始めとする王室の面々や宮中を守る兵士たちだ。 王子として、彼らの訓練の様子を視察することも大事な仕事だ。 訓練場を訪れると、既に二人一組で剣の訓練が行われていた。 「皆の士気はどうだ?」  十年ほど隊を率いている、親衛隊の隊長にアンドレイが尋ねる。 「はい。皆、日々の訓練に意欲的に取り組んでおります、王子様」  隊長は恐縮しきりの様子で答えた。 「そうか。今後とも頼むぞ」  アンドレイが笑顔を見せると、隊長は「はっ」と短く答え頭を下げた。  親衛隊の訓練は順調に進み、その後1時間ほどで終了した。 兵士たちはアンドレイの前を通る際に頭を下げ、ぞろぞろと帰っていく。そんな中、1人の兵士がアンドレイの目に留まった。 「そなた。少々待て」  アンドレイが呼び止めると、兵士は振り返りこちらへと歩み寄ってきた。 「はい、何でしょう、王子様」 「紐が解けておる。訓練が終わったばかりで仕方ないが、服装はしっかりと整えておくようにせよ」  結んでおくべき紐が、解けて垂れ下がっていたのだ。些細なことだったが、アンドレイは気になった。 「はっ、申し訳ございません。承知いたしました」 「服装が乱れていることは、つまり心をも乱れていること。それでは任務にも差し障りがあろう。しかと心せよ」  兵士は「肝に銘じまする」と頭を下げ、足早に去っていった。 「王子様もすっかり変わられましたね」  ルイが感慨深げに言う。 「そうか?」 「はい。人の服の些細な乱れにまで気を配られるようになりました」 「まぁ、だらしなくして欲しくないからな」 「身なりは大切です。宮中を護る護衛隊ですから」 「あぁ」 「そういえば今は、お部屋をご自身で片付けておられますしね」 「私とて昔とは違うのだ」 「そうですね。王子様は素敵な方になられました」  ルイは柔らかい笑顔を向けてきた。 「なっ、何を言っている。変なことを申すな。さぁ、そろそろ行くぞ」  アンドレイはルイを促してその場を後にした。

ともだちにシェアしよう!