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第31話
リカルドが流罪になったひと月後、アンドレイはルイと共に王室の親衛隊の訓練に顔を出した。
親衛隊は父王を始めとする王室の面々や宮中を守る兵士たちだ。
王子として、彼らの訓練の様子を視察することも大事な仕事だ。
訓練場を訪れると、既に二人一組で剣の訓練が行われていた。
「皆の士気はどうだ?」
十年ほど隊を率いている、親衛隊の隊長にアンドレイが尋ねる。
「はい。皆、日々の訓練に意欲的に取り組んでおります、王子様」
隊長は恐縮しきりの様子で答えた。
「そうか。今後とも頼むぞ」
アンドレイが笑顔を見せると、隊長は「はっ」と短く答え頭を下げた。
親衛隊の訓練は順調に進み、その後1時間ほどで終了した。
兵士たちはアンドレイの前を通る際に頭を下げ、ぞろぞろと帰っていく。そんな中、1人の兵士がアンドレイの目に留まった。
「そなた。少々待て」
アンドレイが呼び止めると、兵士は振り返りこちらへと歩み寄ってきた。
「はい、何でしょう、王子様」
「紐が解けておる。訓練が終わったばかりで仕方ないが、服装はしっかりと整えておくようにせよ」
結んでおくべき紐が、解けて垂れ下がっていたのだ。些細なことだったが、アンドレイは気になった。
「はっ、申し訳ございません。承知いたしました」
「服装が乱れていることは、つまり心をも乱れていること。それでは任務にも差し障りがあろう。しかと心せよ」
兵士は「肝に銘じまする」と頭を下げ、足早に去っていった。
「王子様もすっかり変わられましたね」
ルイが感慨深げに言う。
「そうか?」
「はい。人の服の些細な乱れにまで気を配られるようになりました」
「まぁ、だらしなくして欲しくないからな」
「身なりは大切です。宮中を護る護衛隊ですから」
「あぁ」
「そういえば今は、お部屋をご自身で片付けておられますしね」
「私とて昔とは違うのだ」
「そうですね。王子様は素敵な方になられました」
ルイは柔らかい笑顔を向けてきた。
「なっ、何を言っている。変なことを申すな。さぁ、そろそろ行くぞ」
アンドレイはルイを促してその場を後にした。
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