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第38話
「いたっ……」
痛みにアンドレイが呻くと、ルイが慌てた。
「だ、大丈夫でございますか?申し訳ございません」
「いや、大したことはない。しばらくしたら治るだろう」
「しかし、無理はなさらないでください」
「あぁ、分かっておる。傍でしっかりと監視していてくれるか?私が無茶をしないように……」
「もちろんでございます。片時も離れはしません。私は王子様のものですから」
ルイは優しくアンドレイの額に口付けを落とした。
ふと、アンドレイは遠い過去に額に口付けをされたことを思い出した。
もしかしたら、子供の頃から好いてくれていたのだろうかと思ったが、敢えて聞かなかった。
後日、アンドレイを刺した女は殺人未遂の罪で捕らえられた。
身柄は重罪人を取り調べる部署へと送られ、厳しい取り調べが開始された。
女は、王子であるアンドレイに嫉妬するあまり、何も考えられなくなりアンドレイを刺したという。事件時には数日前から仕事を休み、アンドレイが一人になる機会を狙っていたのだ。
彼女は、処刑されることになるだろう。
そのことを聞いたアンドレイは、自分を刺した相手とはいえ複雑な気持ちになった。
恋敵を狙うなど言語道断だし、そんなことをしても愛する人の心を得られるわけではない。
それでも嫉妬してしまう気持ち自体は分かる。アンドレイだって女に嫉妬したのだから。
また想いが通じ合ったからといって、日常が変わるわけではない。
関係は周りに知られてはいけないし、愛は密かに育むしかない。
思えば、身体の関係もこれまでよく秘密にできたものだ。
いつか、二人に高い壁が立ちはだかるかもしれない。
けれど、今はまだ幸せに浸っていたい。
困難に見舞われたら、その時に考えようとルイと二人で話した。
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