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第50話
幸い、父王は最悪の事態を免れて一命を取り留めた。
しかし、予断を許さない状態であり、治療が続けられた。
そんな時、妹のユーリが泣きじゃくりながらアンドレイの部屋にやってきた。
「どうしたのだ、ユーリ」
「兄上に、謝らなければいけないことが……」
言いながらも、ユーリはしゃくり上げる。
「なんだ、言ってみよ」
「……ルイ殿との噂が広まったのは、私のせいなのです」
「ユーリの?」
アンドレイは眉をひそめた。
「誰にも話さないと約束しましたが、私の侍女に話してしまったのです」
アンドレイは呆然とする。
「なぜだ……なぜそんなことを……」
「兄上をルイ殿に取られそうな気がして……兄上のご迷惑になると分かっていましたが、我慢ならず話してしまいました……」
「ユーリ……」
ガックリと肩を落とした。あの時、ユーリに知られたのが運のツキだったか。
「私も口止めをしていたのですが、広まってしまったようです」
「そうだったのか……」
「兄上……本当にごめんなさい……とんでもない過ちを犯しました」
ユーリはますます泣きじゃくる。
「……そうだな。何ということをしてくれたのだ」
「兄上……」
「しかし、起きたことは仕方ない。それに、噂などすぐに消える」
アンドレイはユーリの頭をポンと叩いた。
「そんなに私が好きか?」
からかう様に問うと、ユーリは即座に頷いた。
「ありがとう。しかし、その様子では嫁に行けぬぞ」
「嫁になんて行きません。兄上以上の殿方はいないですもの」
「私も、今後どうなるかわからないのだぞ?王様には、婚姻を勧められているしな」
「兄上が、婚姻……?」
ユーリは驚愕の面持ちで兄を見つめた。
「そうだ。だから、私はどうなるかわからない。お前も、そろそろ兄離れしたらどうだ」
すると、泣き止んでいたユーリは再び泣き出した。
「そんなこと言わないで……」
「ユーリ……もちろんお前も大事だが、私にはルイがいる。お前は、大事な妹だ」
ユーリにとって刃となる言葉をかけて、アンドレイは彼女を抱きしめた。
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