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第52話
父王の容態は思わしくなく、政務を執り行うことができなくなった。これにより、病床の父王からの言い付けで、アンドレイが代理執政をすることになった。要するに、父王の代わりに政務を執り行うということだ。
執務の一貫として、庶民の状況を知るために市中へとルイを伴い視察に行くことにした。
宮廷で着ている服だと目立ってしまうため、アンドレイもルイも庶民と変わらない服に着替えて城を出た。
馬を駆る方法もあったが、敢えて徒歩で向かう。
「私はこれまで、王子としての教育を受けてきたが、庶民の暮らしに触れることはなかったかもしれないな」
目的地の街への道中、アンドレイはぽつりと呟いた。
「そうかもしれませんが、これから庶民がどの様な暮らしをしているか、街がどうなっているか知っていけば良いのではないですか?」
「確かにな。臣下からの報告を聞いているだけでは実際のところは分からない。この目で確かめて民の暮らしを知らなければ、民に寄り添うことはできないからな」
だから視察に行くのだ。父王も、かつてはたまに城を空けて視察に行っていたものだ。
二時間ほど歩き、今回見て回る街に到着した。
宮中から歩いて来られる街を選定したのだ。宮中からは南に位置する街であり、宮中に割と近いにも関わらず、貧しい地域だと聞かされていた。
都の近辺は賑わっていても、一歩外れると貧しい人々も暮らしている。
街に入るなり、アンドレイは言葉を失った。
雑然とした雰囲気があり、不衛生さが目立つ。
環境がまず良くないと、アンドレイは思った。この地域の環境を整えなければいけない。
「これはまずいな……」
ほとんど宮中で過ごしているアンドレイにとって、実に衝撃的な光景だった。
「はい。私もここまでの地域は見たことがありません」
ルイも愕然としている。
「川にかかる橋は落ちたまま。商店も物を売れる状態にはない。地域を統治している者に改善させねばな」
アンドレイは頭を抱えた。
落ちた橋は、直す費用がないのだろうか。
商店も何軒か立ち並んではいるが、かろうじて商いをしているといった様相だ。
はっきり言ってしまえば、雑然としているし不衛生極まりない。
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