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第53話

「承知しました。早急に連絡いたします」  その言葉を聞き、アンドレイは頷いた。そして、路地の隅に十歳くらいの少年が蹲り座っているのを見つけた。身なりはボロボロで、どことなく冷えたような目をしている。 「あの子は……」  なぜか気になった。 「きっと、貧民の子でしょう。この辺りは、親を亡くした子もいるとか」 「そうなのか?」 「国の中でも特に貧しい地域と聞いておりますし、作物も取れない状況の模様です」 「そうだったのか……私はそんなことも知らなかった……。これでは王になる資格などないではないか」  心底自分が恥ずかしかった。何でもっと早く、自分の足で民の暮らしに触れようとしなかったのか。王になってからやれば良いという問題ではない。今のうちから、国というものを知っておかなければならないのだ。 「少し、話を聞いてみるとする」 「え?あっ、王子様!」  ルイは慌てたようだが、アンドレイは手で制した。そして、蹲っている少年の傍らに行きしゃがんだ。 「どうしたのだ?ここで何をしている?」  できる限り、優しく声をかけることを心掛けた。 突然声をかけられた少年は、一瞬目を見開いた。しかし、再び顔を伏せてしまう。 「腹が空いているのか?」  もう一度声をかけると、少年が口を開いた。 「誰……?」  感情の見えない、冷え切ったような声だった。子供らしさのない、既に何かを諦めているかのような……。 「私は、きゅ、宮廷に使えている者だ。たまたま街の様子を見ていたら、そなたが見えたのでな」 「何か用……?」一  こんな風に言われても、アンドレイらは平民の服を着ているのだし王子だなどとこの子は思わないだろう。 「お腹が空いたなんて、通り越してる」 「……どのくらい食べていないのだ?」 「三日。三日は食べてない。その前は五日食べなかった」 「五日?両親はどうした。どこにいる?」 「そんなの、一年前に死んだ」  少年は、どうということのないような口振りで言った。

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