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第56話
次の日、なかなかルイが部屋にやって来なかった。
普段は朝八時には部屋を訪れるルイだが、午前九時を過ぎても来る気配がない。
執務にも集中できず、アンドレイは を呼びルイの居場所を尋ねた。
「ルイ殿でしたら、地方に移られました」
「う、移った?」
時間が止まったような気がした。そして、途端に心臓の鼓動が速くなる。
嫌な予感しかしない。
昨日まで一緒にいたのに……。ずっと一緒にいると言ったのに……。
「何故だ?何故急に……」
冷や汗が背中を伝うのを感じた。
「昨日、お戻りになった後に王様に命じられたようです」
「王様に?」
やはりそうか。自分と引き剥がしたいのだろう。
「はい。ルイから手紙を預かっております」
トムが差し出した手紙を受け取った。
「これからは、私めがお側仕えを仰せつかっておりますので、よろしくお願いいたします」
トムは恭しく頭を下げた。
「あぁ。承知した」
トムが去った後、アンドレイは自室の机に向かい、ルイの残したという手紙を読んだ。
『この様な形で、手紙を書くことになるとは思いませんでした。私は王様の命にて、ナンザの街で警備の任に就くこととなりました。突然離れる私をお許しください。私の心は、常に王子様と共にあります。そのことは、忘れないでください。いつか必ず、王子様の隣に戻りますので、それまでお待ちいただければ幸いです。愛しています』
そう書かれていた。王に命じられたなら背くわけにいかない。アンドレイは父王が憎く感じられた。
これ程突然に、ルイがいなくなるとは思わなかった。父王は敢えて、アンドレイに対策を練る隙を作らせないようにしたのかもしれない。
涙が止まらない。一体、どうやって戻ってくるというのだろう。
ルイに会いたいに決まっているが、いずれ再会できるか分からないし不安だ。
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