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第58話
「王様。私をお縛りください。きつく、決して解けぬように片時もお傍を離れぬように……」
「もちろんだ。ルイ、私の傍を離れてはならぬ。永遠に、私の傍にいよ」
「はい。承知いたしました」
恭しく頭を下げるルイを見て、アンドレイは彼に再び軽く口付けをした。
「気持ちが高まっては仕事にならぬから、後でたっぷりな」
顔を赤く染める姿が可愛い。
「はい。あ、あと伝え忘れておりました」
「なんだ?」
「隣国ウルバヌスのクラウド王から訪ねたいとの申し出がありまして」
「クラウド王が?」
ウルバヌスは、アンドレイの統べるラティーナ国の北に位置する国だ。
これまでに使者とは対面しているが、国王であるクラウドとは二度ほどしか会っていなかった。
「はい。王様にお会いしたいとのことです」
「そうか、分かった。日程の調整を進めよ」
「承知いたしました」
クラウド王は紳士的であり、優しい印象だったのをアンドレイは覚えている。
初めて会ったのは、父王に連れられて19歳の頃にウルバヌスを訪れた時だった。その頃はクラウドも若くして即位したての頃であり、
身長も高く、均整のとれた体躯を持つ端正な顔立ちの男だ。
美形な王としても、女性に人気があると聞いたことがある。
どうして今、自分に会いたいというのかアンドレイには分からない。
一ヶ月後、新緑の季節になりクラウド王がやってきた。夕刻前に、アンドレイは城の大広間で一行を出迎えた。
さほど仰々しいものではなく、十名程度の一行だ。
「ようこそいらっしゃいました。お疲れのことでしょう」
「いえいえ。アンドレイ殿にお会いできるだけで心が浮き立っております」
クラウド王が艶っぽく笑んだ。
「ははは。それは嬉しい限りでございます」
クラウド王の言葉に、アンドレイは深く考えずに笑った。
「今宵は宴をご用意しておりますので、存分にお楽しみください」
「ありがとうございます」
その後、しばしの間休憩を挟み宴は開かれた。クラウド王は国賓であるため、丁重にもてなしをしなければならない。これも外交だ。
会場となった庭では、優雅な音楽が奏でられる中での、踊り子の華やかな舞が披露される。隣に座るクラウドの顔をちらりと見ると、楽しそうに舞を見ているようなの
安心した。
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