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第59話
出される食事にも、大いに注意を払った。クラウド王の来訪が決まるや否や、調理を担当する部署に料理の準備を命じたのだ。
気を入れて用意をした料理は、クラウド王のお気に召したようだった。「これは何だ」「あれは何だ」とアンドレイに質問をしながら次々に口へ運んでいった。
「我が国にはない料理もあり、なかなかの美味ですね」
そう言って、クラウド王はご満悦の様子だ。
「喜んでいただけたなら幸いです」
アンドレイも笑顔で返した。
しばし歓談は続き、二時間ほどで宴は散開となった。
アンドレイが席を立とうとした時、クラウド王に声を掛けられた。
「お待ちください、王様」
「何でしょう」
「これから、お時間はございますか」
「はい。特に予定はございませんが」
周りでは皆、席を後にしていく。それを横目に、アンドレイはキョトンとした。
「もしよろしければ、私と二人で飲み直しませんか」
クラウド王のその言葉に、アンドレイの傍らに座っていたルイが僅かに反応したことに、クラウド王本人は気付いていない。
「私と、ですか?」
「えぇ。ぜひとも“二人だけ”でお話したいことがありまして」
クラウド王は瞳をぴかりと光らせた。
アンドレイも、なぜ彼が自分とそこまでして話したいのだろう、何を話すというのだろうと少しは思った。けれど、あまり深く考えずに了承した。
「承知いたしました。では、部屋を設けますのでそちらでまた飲みましょう」
「それは嬉しいです。では、早速参りましょうか」
「そうですね」
クラウド王とアンドレイは席を立った。ルイもそれに倣う。
「ちょっと……王様……」
ルイが、立ち去ろうとしたアンドレイを小声で呼び止めた。
「どうした?」
アンドレイが怪訝に思っていると、ルイが耳打ちしてきた。
「クラウド王にはお気をつけください」
「何故だ?」
「理由は分かりませんが、嫌な予感がするのです」
「気にし過ぎだろう。大丈夫だ、そなたは自分の部屋に戻っていろ」
「はい」
アンドレイは、ルイの肩をポンと叩きその場を後にした。
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